第9話 再会は突然に?

 そして、帰り道、嬉しそうなにサリナのフィギュアを持ち、変質者の目で眺める那奈美。

「もう、あのコンビ二に行けない」

「ふふ、なーに言っているのよ?こうして、私の尊厳は、守られたのだから光栄に思いなさい!いやー、それにしてもサリナたんまじかわいい。決めた!イカ丸最新イラストは、サリナたんで決定ね!」

「そうですかい。代わりに俺の尊厳は、心の底から蹂躙されたがな……」

俺は、周りに顔を見られないようにとぼとぼと顔を伏せて歩く。別に周りに人はいないが、気分的にそうしていた方が落ち着く。

那奈美もそんな俺を見て、少し嬉しそうな態度を改める。

「まあ、ありがとうね。サリナたんフィギュア。大切にする」

「お、おう……」

突然、那奈美にお礼を言われた俺は、余りの動揺に言葉が出なくなってしまう。それを見て、那奈美はにやりと笑う。

「ふふん、なに?ツンデレな那奈美さんにキュンと来た?」

「そのセリフが無ければな。ツンデレぐらい俺だって分かるけどさ、流石にドヤ顔でそう言う事を言われたら、オタクじゃなくても喜べない」

「あはは、当たり前じゃない。私は、アンタのことが嫌い。これは、変わらないからね」

カラッと笑う那奈美、確かに記号としてのツンデレならこれで条件はそろうが、リアルでやられても情緒不安定にしか見えない。

「そうだろうが、それでもしっかりお礼を言える那奈美はすごいよ。俺には言えない」

「そうよね。アンタは昔からそうだったわよね。愛想がないのは、ご両親のことがある前からだったものね」

「うるさ……へ?昔?」

「げ……な、何でもないわよ!お、おほほほ」

先ほどの笑いとは打って変わった、不自然な笑いで誤魔化す那奈美。

俺は、馬鹿だった。

よく考えてみろ、俺が、なんで、湯上に来たのか。それは、死んだ両親と最後に来た場所であったから。

なんで、数ある温泉旅館から七重旅館を選んだのか、それも同じ理由である。最後に泊まった旅館だったから。

では、なんで、初対面の那奈美にビンタされたのか。今の今までは、不可解であったが今なら分かる。

思い出した。

「ナッちゃん……なのか?」

記憶の奥底に眠っていた少女。ナッちゃん、そしてナッちゃんには、ミーちゃんと言う顔がそっくりな妹がいた

「そ、それは、ジュース?ゴメン、私、栄養ドリンクしか買ってない」

「そのボケは、面白くないぞ、ナッちゃん。俺は思い出したからな!旅行中俺と遊んだ双子の女の子!ナッちゃんとミーちゃん!」

そう、もう数年前、まだ俺が普通の男の子だった頃にあった女の子がいた。

その頃は、温泉で満足できないクソガキだった俺が退屈しなかったのは、同じ遊び相手がいたからである。

数日の関係だったし、あの後すぐに両親が他界してしまい忘れていた。しかしよく考えれば、すぐに分かることだった。

「ナッちゃん?人違いじゃないの?私は、宗吾と初めて会ったのは、アンタが一人でうちに泊まりに来たのが初めて……」

「いや、はじめて会った相手。ましてや、あの時は、客である俺にナッちゃんがいきなりビンタする訳なんてない」

「それは、気にくわないからよ」

俺の問い詰めに目を泳がせる那奈美だったが、俺は絶対に目を離さない。今逃がしたら、もう、この事実を確認する機会がない。

「けど、俺が自己紹介もしてないのにナッちゃんは、俺を名前で呼んだ。宿泊名簿に書いてあったなんて言わせない。俺以外にだって、一人旅でここまで来る男はいるはずだしな」

「そ、そんなことないわよ!そ、ソース出せ!」

「そーす?あぁ、証拠か」

一瞬調味料を想像してしまったが那奈美は、きっとソースコード……証拠のことを言ったのかもしれない。

しかし、照明は簡単だった。俺はケータイを取り出すと、とある番号に電話を掛けた。

訝し気に俺を見る那奈美。

「な、なによ?ケータイなんて持って中二病?」

俺は、那奈美女を無視しているうちにケータイのコール音が終わると一人の女性の声が聞こえる。

『どうしましたか宗吾さん?宗吾さんから電話を掛けるなんて珍しいじゃないですか』

「あ、美夜……ミーちゃんか?あのさ、突然なんだが……」

「ず、ズルいわよ!宗吾!美夜を使うなんて卑怯よ!」

……ソースを出せと言ったのは、那奈美だろうに。俺の電話を必死に遮ろうとする那奈美だったが、それは構わず、電話越しで物凄く枯れた笑いをする美夜。

『あ、あはは、お姉ちゃん。私には、言うなって言ったくせに、バレるの、早すぎですよ……その、宗吾さん。いいえ、そう君、改めて、お久しぶりです。お姉ちゃんに行ってください。諦めなさいって。っと、積もる話があると思いますが、切りますね』

そう言い、美夜は、電話を切ったので、那奈美の肩を掴んで言ってやった。

「ミーちゃんからだぞ、ナッちゃん。もう諦めなさいだって」

「馬鹿め。って言っておきなさい」

観念したのか、認めたくないのか、かたくなに俺と目を合わせようとしない那奈美は冗談で逃げようとし、顔を俯かせる。

「ナッちゃんごめん。ナッちゃん達の事を忘れていて俺も言い訳を言うつもりはないが、あの後、両親が他界して大変だったんだ」

俺が最後の一押しに、二回目の初対面での無礼を謝ると、ボソッと那奈美は、言い出す。

「違うわよ」

「まだ認めないか……」

諦めの悪さ、那奈美の特徴でもあるが、那奈美だってもう言い逃れはできないと思っているはず。頭の悪くない那奈美だって分かっている。

諦めたのか、ヤケクソなのか、俺に目を合わせた那奈美は、鋭く目を尖らせた。

「違うわよ!私だってそんなんじゃ怒らないわよ!そう君の馬鹿!けど、それは今言う事じゃない!だから、言っちゃうなら、そうよ!私は、宗吾と会ったのは、あの時が二回目!認めますよ!認めますとも!私は、ナッちゃんよ!ずっと、そう君を待っていた残念ナッちゃんですよ!ええ、ナッちゃんですとも!」

「ナッちゃん……やっぱりか。まあ、許されないのも分かっていたよ。けど、こうやって思い出せた。ナッちゃん、久しぶり」

俺は、心の底から自分を侮蔑する。

何にせよ友達に失礼なことをした。これは許されないことだったのだから。

しかし、それでも思い出せた。今は、それだけで嬉しい。

「はん、久しぶり。そう君、積もる話はないけど、募る恨み節は、多いわよ。あ、アンタのことは、大嫌いだもの」

「まあ、帰るまでは聞くよ。それにちゃんと、恨み節を聞くたびに謝る」

「そう!じゃ、言うけどね……まずは、私のことをナッちゃんって呼ばない事!今は、あの時とは違うんだから!」

「はいはい、分かったよ、那奈美。これでいいんだろう」

「それでいいわ。それからね……」

この後、家に帰るまで、那奈美から募る恨み節を聞き、悪いと思うたびに謝り、時に笑う。

心の底から笑えたのはいつぶりだろうか。

そして、その中で、興味のある話を聞いた。それは、湯上は、空き家が増えたという事。

空き家。

これは、使える。心の底の底から笑いながらも、俺は、地方創生のヒントに気が付いた。

どんなに楽しい話をしても、そう言った今自分のするべきこと以外のことを思いつく俺は、もうここまで来るともう俺の元資産家と言う肩書は、病気でしかなかった

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