第8話 どうやら、社会的には、死ねるようだ。

 仕事も一息つき、部屋に戻ると部屋は、お菓子の食べかすなどで散らかり、つきっぱなしのテレビの前で、七重と那奈美が昼寝をしていた。

「おい、お前ら起きろ。これはどういうことだ?」

「ん……んなんじゃ?宗吾、妾の睡眠を邪魔して」

「くぅ……にゃにゃえしゃま~」

俺は、二人をゆすり起こすが、那奈美は、すっかりと熟睡してしまっている。しかし、七重は、のっそりと目を覚まし、不機嫌そうに俺を見るが、不機嫌になるのは、俺なのではないだろうか。

「いや、なんだ、この部屋の惨状は……」

「あぁ、日朝を見るために早起きをしたが、終わった瞬間眠くなってしまっていな。徹夜明けの那奈美と昼寝を……いや、その昼寝だけじゃよ?別に、宗吾の隠していたお菓子を全部食べたりなんて……してないのじゃ。な、なぜ笑っている宗吾」

「笑ってない。怒っているだけだぞ」

「わ、分かり辛い!分かり辛いのじゃ!お、怒らないでくれ!」

怒っては、いる。仕事が終わったら食べようとしていたクッキーなどは、全て無くなり、昨日掃除した部屋は、見事に汚くなっている。

俺の怒りを察してか、ビビる狐耳ロリババァ。しかし、大人な俺は、物凄く優しい。怒った顔を笑顔に変え、七重の両肩を掴む。

「ひぃ!」

「掃除しろ。後、横で寝ているポンコツも起こしてくれるよね。七重様」

「も、もちろんじゃ!お、起きろ!那奈美!起きないと死ぬぞ!」

七重は、全力で那奈美女をゆすると、眠気眼のまま体を起こす。

「なんですか……七重様、まだねむ……ひいぃぃぃ!」

「起きたかポンコツよ」

那奈美は、俺の顔を見た途端、女の子があげてはいけないような声で悲鳴を上げる。そのまま仰け反り俺から距離を取る。

「そ、宗吾!寝起きの人間になんちゅう怖い顔見せとんねん!ぶ、ぶっ殺すぞ!ワレェ!」

「おい、エセ関西弁。喧嘩売る相手は、選ぼうか?」

エセ関西弁で、抵抗する那奈美だったが、すぐに強気な表情は、恐怖へと塗り替えられる。

「な、なによ!私達は、朝の戦隊ものから始まり、親の目を気にするようなこども向けアニメを見てニヤニヤしていただけじゃない!別に悪いことなんてしてない!」

「そ、そうじゃ!妾達は、ただの可愛い童!そこまで怒る必要など!」

抵抗してくる、ポンコツたちに俺は、告げる。

「命令だ。掃除、および食べ散らかしたお菓子の補充をすること以上!反論は認めない」

「「サー!イエスサー!」」

「サーは、一回!」

「「サー!」」

こうして、俺の部屋の秩序は、回復した。時折、七重が、俺の顔を見て、怯えることもあったが気にしない。

だって俺、悪くないもん。


「たく、だからって、なんで私が、アンタと買い物に来なきゃいけないのよ」

「当然だ。俺でなければ殺されていたぞ」

「絶対に謝らないからね」

そして、俺は、那奈美と二人で、コンビニに買い物に来ていた。お菓子の補充だ。本来俺は、欲しい時に欲しい分だけ買っていたが、湯上のような田舎では、コンビニまで歩いて時間がかかるため買いだめをしていたが、日朝お化けによって、買いだめは駆逐され、新しく買い出しのため来ていた。

「ていうか、アンタ、クッキー買い過ぎじゃない?男なのに甘党なの?」

「そうだぞ。甘いものは疲れた頭には、丁度いいからな。それに甘いものが好きなのは、性別なんて関係ないだろ、セクシュアルハラスメント反対」

そう言い、俺は、手当たり次第にクッキーをかごに入れるがそれを見て、ドン引きしている那奈美。そこまで引くのだろうか。

「なによ、別にセクハラなんてしていないじゃない文句言うな」

「知らないのか?セクハラは、被害者が訴えれば、成立する」

「ならあんたは、もう何度も私にハラスメント行為をしているのかしら?」

……してないはず。

那奈美と会って数日、最近は、初対面の時に比べれば、話すようにはなったが、態度が軟化したわけではない。

今の状態だって、たまたま、那奈美が絵師白濁々イカ丸先生だったという事実を知ったからであって、こんなことが無ければきっと今でも関係は最悪だった。

「しかし、俺のことを言う割に、那奈美だって栄養ドリンクを大量に購入しているじゃないか。そんなに、大変なのかお絵かき?」

「絵のことは言うな……と言いたいけど、確かに最近は、大変ね。変に人気が出ちゃったし、定期的に絵を描き上げないと理不尽な文句言われるし、気に入らない絵とあいつら、理不尽な事ばかり言ってくるし……本当に●したくなる」

こ●したくなるって、楽しく絵をかいているだけなのに、なぜオタク文化は、人気になればなるほど、殺伐とするのだろうか。

そんなことを考えていると、那奈美が不自然に動きを止める。

「どうした那奈美?いきなり立ち止まって」

「こ、これは……ないと思っていた一番くじ……アニメ、幼女ペロペロ日記。しかもA賞のサリナたんフィギュアが残っている……だと」

「えと、な、なんでしょう。その頭の悪そうなアニメは」

嫌な予感のした俺は、変質者の様な目をした那奈美から離れようとしたが、それより先に話しかけられる。

「宗吾、アンタ、これ引きなさい。お金なら、家の手伝いでためた奴があるから!最低でも、サリナたんが出るまで」

「お断りします。いやだよ。なんで俺がこんな頭の悪そうなアニメの一番くじを引かなくてはいけない。絶対に嫌だ」

「だめ!私は、もうここらへんじゃ顔が知られているから引けないの!それに幼女ペロペロ日記の悪口は、言ってもいいけどサリナたんの悪口は許さないわ!確かに幼女とか言う題名を関しているくせに、メインヒロインがお姉さんキャラで、主人公は、ロリコンのくせして、巨乳フェチとか言う意味の分からない設定の糞アニメだけど、サリナたんは、天使なの!優しくて、時に落ちこんだ主人公を励ます大天使サリナたんここで一番くじを引かないで、なにがオタクだ、白濁々イカ丸よ!絶対にこのサリナたんを、家に持ち帰って、あんなことやこんなを!ふ、ふへへへ」

素直にドン引きする。

オタクと言う生物が、語り口調で、趣味に全力過ぎる熱意を持っているのは、俺と交友のある社長もそう言う人だったからなれたと思っていたが、那奈美の様な俗にいう美少女がこういう顔をするとなんとも言えなくなる。

「いやだよ!俺がロリコンなんて思われたくない!」

「引きなさい。引いたら、私も、何かおごるし、何だったらここにあるクッキーを買い占めてもいい」

「い、嫌だ。俺は、綺麗な終活を迎えるためにこんな所で変な噂を立てられても困る」

「お願いします、買ってください。マジでお願いします宗吾様!なにとぞ、私に幸福と栄誉をサリナたんとの素晴らしい日々ください。買ってくれないと、ここで全裸になって、宗吾に強要されたっていうわよ」

「たく、お前には、プライドも恥も無いのか……」

俺は、断ろうとしたが、余りに必死過ぎる那奈美に根負けし、幼女ペロペロ日記一番くじの引換券を十枚ほど手に取る。

「そ、宗吾!私は、初めてアンタをカッコいいと思った」

こんなことで褒められてもうれしくない。俺は、もうどうにでもなれと思い、無言で引換券を持ちレジへ行く。

「あら、いらっしゃい宗吾君じゃない。昨日もあんなにお菓子買っていったのにもう食べちゃったの?太るわよ」

レジには、ここにきて数日のはずの俺の顔をすでに覚えている中年のおばちゃんだった。この人は、うわさが好きで、俺が、この地に来て三日で、俺がここに住むことが町全体に広まっていた。

しかしここで、グダグダになってもしょうがない。ここまで来たら、後は勢いだ。

「おばちゃん!あと!これ、十回お願いします!」

「ひ!え、えと、よ、幼女ペロペロ日記の一番くじ……やだ、宗吾君ってロリコン?」

「違う!しかし、早く引かせろ!俺をこのしがらみから解放してくれ!」

「わ、分かりました!」

おばちゃんが、怯えた様に、くじを持ってくる。普通に知らない人から見れば、変態だろうが、覚悟を決めた俺に怖いものなどない。

「でいああぁぁぁぁぁ!」

俺は、勢いで一枚目のくじを引く。

B賞だ、幸先は、良いが、遠くから、那奈美のもう一度引けのジェスチャーが入る。

「く、もう一回」

これから何度もくじを引くが、A賞が中々でない。そして運命の十回目、何度も引いて行くうちに俺は、だんだん対面など気にしている暇がなくなってきていた。

「ハァ、ハァ!サリナたん!サリナたん!待っていてね!今迎えに行くからね!」

「えっと、宗吾君、アニメなのよ?そこまで真剣になる必要……」

「えぇい!うるさい!A賞じゃないと意味がないんだ!おばちゃん!早く次を引かせろ!」

「は、はい!十回目ね!ど、どうぞ、は、早く当てて帰ってね。他のお客様にも迷惑が掛かるから」

おばちゃんの差し出した箱に、俺の全神経を集中させる。この全てに賭ける。ここで引かなきゃ俺は、(社会的に)死ぬ!)

「うおぉぉぉ!サリナあぁぁぁぁ!」

俺は、一枚のくじを引き、そのくじを開く……そこには、こう書かれていた。

「A賞……よしゃゃあぁぁぁぁ!サリナァァァァァァ!」

俺は、ついにサリナを手に入れ、この拷問から解放されることになった。これで俺は社会的に死ぬこともない。

「ありがとうおばちゃん!サリナたんハヨクレ!」

「あ、はい……ドゾー」

「うは、サリナたん!じゃあなおばちゃん!」

ドン引きしているおばちゃんをよそに俺は、ルンルンで商品を手に取り、店の外に出るのだが……

「よく考えたら、すでに社会的に死んでいたのでは……」

しかし、気が付いたときには後の祭りだった。俺のロリコン容疑は、この後当分晴れることはないのであった。

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