第5話神様出てきて、学校とか、テンプレ俺つえぇぇぇ
そして転校初日、七重は、実体を消し、器(俺)の中でお休みするというようやく神様らしいところを見せてもらい、俺は、転校する湯上高校1年の教室の教壇立っていた。
クラスは、もちろん学年に一クラスのみというド田舎クオリティだが、学校に通わせてもらえるだけでもありがたいので文句は、言わない。
しかし騒がしい。俺が入ってきた瞬間クラスのほとんどがざわめいた。
しょうがない、俺も過去に何度もテレビや新聞で話題になっていたから予想はできていた。
「おーい、うるせえぞ。転校生紹介できないぞー」
てきとうにクラスを黙らせようとする中年教師、小野原次郎。聞いた話では、湯上生まれ湯上育ちの教師らしいが、少しやる気がなさそうな印象を受ける。
そのためかクラスは、一向に静かにならないので厄介だった。
「あー、有馬。すまんな。このまま自己紹介してくれ」
「はあ、まあいいですが」
先生は、諦めた様に俺にさじを投げてきた。文句も言ってもしょうがないので黒板に自分の名前を書くと、てきとうに自己紹介をする。
「有馬宗吾と言います。皆さん知っていると思いますが、俺は、財産のほとんどを株で失いました。まあ貯金とかは、ありますがほぼ破産も同然です。なので、金はありません。皆さんに昼飯はたかりますのでそのつもりで覚悟してください」
うん、わかりやすい自己紹介だ。俺にしてはよくやった方だと思う。しかしそんな自己紹介にさらに周りはざわめき、一人の金髪で少しチャラめの男子学生が手をあげる。
「はい!俺、一ノ瀬健って言います!あの有馬さんは、国外逃亡したんじゃないですか!?」
お調子者の学生一ノ瀬は、普通に聞いたら失礼にあたるような質問をしてきた。
まあ俺もここに来る前、自宅に『遠くへ行きます、探さないでください』とだけ書置きをして逃げるようにここに転がり込んできたからそんな質問がしょうがない。
ニュースじゃ、海外に高飛びしたとか良く分からん報道されていたし誤解を生むようなことをした俺の責任でもある。
「えと、一ノ瀬君?だっけ」
「はい、そうですが、なんすか?高飛びしないんですか?」
うん、純粋な興味から来る悪意を感じた。この類の悪意は、その場限りの冗談のようなものなのでそこまでがっついて対処する必要はないが、なにぶん転校初日だ、あまり悪い空気は出さない方がいいだろう。
「いいか?まずは、海外に行くにはビザの申請をしないといけない。申請には、時間も多少は、かかるし公的機関に情報も残るから海外に行くだけでも結構手間が掛かるんだ。それに密入国なんて犯罪だから論外。まあ金がそこまである訳じゃないからな海外にも行けないけどな!」
冗談には、冗談で返す。俺なりの冗談を言ったつもりだったが、一ノ瀬には、分からなかったようで、露骨に分からないという表情をしていた。
「ピザ?ピザ屋は隣町に行けばあるけど、旅行にピザなんて必要なの?」
「ピザじゃないビザな。まさか、海外旅行に行ったことないのか?」
しまった。
冗談でさらに返された。コイツできる。俺は、一ノ瀬のお笑い芸人としての可能性に打ち震え、しっかりとツッコミを入れてみるが、さらに一ノ瀬のボケは加速する。
「あ……あるし!タイで、タイ焼き食ったし!本場の坊主にたい焼きをお布施としてあげたことあるし!……って、ヒイ!」
なん……だと……こいつのボケ、面白過ぎだろう。俺は、笑いをこらえながら、ボケにトスを渡してみた。
「じゃあ、その坊主にたい焼きを渡した時なんて言われた?」
「ありがとうって言われてニコッとした」
「ぶっ……!あははは!限界だ!負けたよ!ナイスボケ!あはは……タイにたい焼きなんて売ってないし、お布施は、修行の一環だから、笑っちゃいけないんだよ……あははは!」
「な!け……けど!」
「ナイスボケ!」
クラスは大爆笑していた。掴みは最高だった……はず。同じクラスにいた那奈美の冷たい目や、慌てふためく美夜の姿は、きっと気のせい。
だって最高の掴みだったからな!
『いや、掴みは最悪じゃと思うが……ふあ……くぅ……』
七重の心のツッコミが聞こえたが、気にしない。だって、七重は寝ているからな!
「……なぜだ。なぜ、クラスは、俺を遠い目で見る?自己紹介は、最高に良かったはずだ!」
人気の少ない昼休みの屋上、俺は、巫女さんに渡された弁当を黒川姉妹と開いたところで頭を抱えていた。
「そりゃ、あんな怖い顔で一ノ瀬君を攻め立てたら普通にあんたを知らない連中は、ドン引きするに決まっているじゃない」
「あ……あはは、自己紹介は、確かに最悪でしたが、これからですって!」
呆れた様に俺の問題点を指摘する那奈美と頑張ってフォローしようとして、全くフォローのできていない美夜の言葉が胸に刺さる。
「そんな馬鹿な……あの時俺はそんな怖い顔をしていたか」
「酷かった。あのニヤッとしたたくらみ顔、人を馬鹿にする様な笑い方最悪だった」
「いや、普通に笑っただけなのだが」
少なくとも俺は、あの時心の底から大爆笑をしたが、決して一ノ瀬を馬鹿になどしていない。多少悪意のある冗談だったが、それも俺をクラスに馴染ませる冗談だったのでそこまで向きなって蹴落とすつもりはなかった。
しかし、俺の話を聞いて、美夜と那奈美女の表情が引きつっていた。
「えっと……宗吾さんが笑ったところ見たことがないのですが」
「分かった。笑えばいいんだな」
「ひい!ご!ごめんなさい宗吾さん!私が悪かったです!」
「ほ……ほら!美夜!おねえちゃんが居るから!ちょ……ちょっと宗吾!あんたの笑顔怖すぎるわよ!」
美夜に言われて、笑ってみる。そうすると、美夜と那奈美は、今までに見ないほど怖がっていた。そこまで怖いものなのだろうか。
『妾も立場上、鬼のような人とは相いれない異形を何度見てきたが、鬼より怖いぞ、顔……恐ろしい顔ばっかりされると妾も寝られん。少しは、妾を寝かせてくれ』
俺の中で寝ているはずの七重まで苦言を呈する。というか鬼なんているんだな。まあ、神様が本当にいるのだから鬼みたいな生き物がいても驚かないが……
そんな異形より俺の顔は怖いのか?
「しかし、そんなことはないぞ。俺の笑顔で何にもの社長が、俺の要求に快く首を縦に振ってくれていたのだが……」
「それ、きっと要請じゃなくて脅しよ」
「そんなつもりはないぞ」
本当に普通に笑っただけなんだけどな……俺は、少し拗ねて、美湖さんの作ってくれた弁当に箸をつけようとすると、屋上の扉が勢いよく開いた。
「すみません!有馬さんはいらっしゃいますか!」
そこには、やけにかしこまったお笑い芸人……もとい、一ノ瀬が息を切らし立っていた。
「い……一ノ瀬」
俺は、先ほどの件を聞いてから、少し一ノ瀬に罪悪感があった。理由はどうあれ、俺は一ノ瀬をクラスの笑いものにしてしまった。それは、悪であり、きっと、一ノ瀬は、その報復をしに来たのだろう。しかし、俺が悪いのだから殴られてもしょうがない。
俺は、覚悟を決め、目をつぶる。
「すみませんでした!有馬さん!失礼なことをしてしまい」
「はい?」
俺達は、ポカンと間抜けな顔をしてしまう。だって俺、殴られると思っていたんだよ!まさか謝られるなんて思ってもいなかった。
「えー、えっと、一ノ瀬、悪いんだが、訳が分からん。俺がむしろ一ノ瀬に謝るべき……」
「いいえ!自分!調子に乗っていました!自分今まで運動部だったんですが、高校デビューで髪を染めてピアスまでして!新顔に上下関係を教え込もうとしたのですが、あそこまで煽られて、大人な対応をされるなんて思ってもいませんでした!自分を舎弟……いいえ!自分を男にしてください!」
うん、さっぱり分からない。分かるのは、一ノ瀬が高校デビューしたいということくらいで……あまりの超展開に俺は、那奈美達に助けを求めるが……
「ホモ展開……うげ……宗吾だと萌えないわ……」
「あう……い、良いもの見ました」
ダメだ、那奈美は、余りの展開について行けず、オタクな部分が少し出てしまっているし、なぜか、美夜まで顔を赤らめていた。
「え……えと一ノ瀬?」
「なんすか!」
や、やり辛い。俺も昔からほとんど友達がいないからか、こういった体育会系のノリについて行けずいい言葉が出てこない。
「えっと……とりあえず一緒に飯食わない?」
「はい!ぜひ!舎弟として最初の仕事ですね!分かりました!一ノ瀬健、どこまでも音も致します!」
「……よ、よろしく」
この日、俺は、初めて、舎弟を作ってしまった。うん、最近は、七重の件と言い、良く分からない事ばっかり起こる……うん、全部七重が悪い。
『余計なお世話じゃ……ぐうぐう……』
俺は、湯上に着て何度目かの現実逃避をすることになった。おかげで美湖さんの美味しいお弁当味の味だったはずなのに全く覚えていなかった。
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