第4話ロリババアは、妙に俗世的
そして、三日が立ち、朝の枯れ葉掃除を七重としながら、今後の方針について俺は、考えていた。
「まずは、観光協会とやらに参加するところからかな……美湖さんと幸さんに口利きして貰えば良い。しかし……湯上町の現状を調べる限り、あまり期待はしない方が……しかし、こういうのは、地元の人の方が……」
「おい、宗吾!手が止まっておるぞ!」
「おっと、すまない!ついつい考えていたら手が止まっていた。というか、なぜ七重まで働く?別に寝ていていいんだぞ」
俺は、ほうきを再度動かしながら、七重に言う。実際、俺が働くのだって、美湖さん達から遠慮されていた。しかも七重が、俺と働き出して美湖さんは、卒倒してしまった。
しかし、七重は、少し拗ねた様に口を尖らせる。
「なんじゃ、人の子だけが労働後の食事を楽しめるなんてズルいではないか。妾だって、労働後の美味しいご飯を食べたい。それに、黒川の人間は、大げさすぎる」
「そりゃ仕えている神様が、自分の下で働くとか言ったら、恐れ多いだろう」
「そんなものか?」
「そんなもんだ。それに、変化して人前に出られるなら巫女なんていらない気がするが」
この数日で、ウチの神様は、やけに俗世に馴染んでいると思ったが、今の七重は、しっぽと耳を引っ込め、人間のような姿で働いているからか、傍から見たらただの幼女にしか見えない。
「何を言う!この姿では、妾の言葉に威厳なんてないだろう。やはり、素早く妾の言葉を広めるには、巫女が必要なのじゃ」
「そう言うものなんだな……」
「そう言うものなのじゃ。と、そうじゃ、そろそろ人口増加の考えでもあったら教えて貰おうと思うのだが」
現代子神様は、どうやら、俺の独り言を聞いていたのか、興味津々に聞いてくる。
「まあ、まずは、観光だよな。認知度を上げないといけない。幸いなことにここは、温泉地。なにも無い田舎よりは、売るものがあって楽だからな。まずは、観光協会に行って、今は、どんな政策をしているか調べる必要がある」
「うぬ、そうじゃな!しかし、観光協会か」
「なにか、あるのか?」
七重は、少し苦い表情をしていた。理由はなんとなくわかる。俺が危惧しているのは、町の驕りである。
温泉という大きな商品に胡坐をかき、ろくな観光政策をせず崩壊間際な土地は、多く、過疎化の原因にもなっている。
「まあ、もう察しているとは思うが……恥ずかしながら、湯上の地の観光協会は、働くのが苦手でのう。名物は、温泉饅頭と湯の華。こればかり押していていな」
「うわ、知っていた。典型的な温泉名物二強。あまりにどこでも作れるから、埋もれやすいお土産」
最悪だった。
完全に、悪い温泉地のやりがちな商売方法だった。没個性が個性だと信じ込み、数字を見ない現実逃避。数字が見られなくなった観光地ほど廃れるのは、どこも同じだと思う。
ましてや、ターゲットが、老人ばっかりだと、そこに人は、住まない。
老人は、大抵すでに持ち家があり観光には来るが移住はまずしない。人口を増やすのなら、若者か、外国人をターゲットにした方がいい。
別に老人を差別しているわけでない。彼らも立派な財源だ。知名度を上げるにはうってつけなのだが、俺の目的は、あくまで、移住者の増加、知名度上げるのは、目的でなく家庭なのだ。そう考えるとやはりターゲットは、若者か、外国人になってくる。
「なあ、七重、湯上で、若者とか外国人が好きそうなアクティビティは、あるか?」
「うむ、渓流下りや、バンジージャンプ、後は、登山くらいじゃないか?正直交通の便もいい訳じゃないから、家族での移住もそこまで見込める訳じゃない」
「負の連鎖かよ……頭が痛い」
「うむ、妾も正直、これで地方創生ができるなら、宗吾を器になどしておらんからのう。妾が期待するのは、もっと画期的なものだ。この地は、サボりすぎた」
随分と、自分の土地の評価が低い土地神様だが、安心した。土地神様まで、数字が見られない様な奴だったら俺は、一生この地で生きて行くことになりかねないからな。
「はあ、気が重い今日から学校なのに」
「そうか、宗吾は今日から学校か。どうじゃった?学力試験があったのじゃろう。成績は、悪かったのか」
「全部満点。余裕過ぎる」
ぶっちゃけ、学校の勉強に関しては、心配する必要がない。俺だって、伊達に高校生資産家なんて、名乗っていた訳でない。自立するために努力は惜しまない結果だ。
「余裕じゃのう。この分なら、学校に行きながらでも、妾との契約も履行できそうじゃ」
「まあ、勉学に関しては安心してくれ」
「なんとも頼もしい」
そんな話をしていると、作務衣を着た美夜が、俺達の方に走ってきた。
「あ!宗吾さん!七重様!朝ごはんですのでお掃除は、そこまでで大丈夫ですよ!」
「お、飯だ。行くか、七重」
「おお!妾のご褒美タイム!」
俺達は、不安材料を抱えながらも、ご飯の誘惑には勝てなかったので、作業を中止して、美夜の方に向かっていった。
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