第3話 えろしこ、自爆営業な姉

そして、俺は、話をするため那奈美の部屋の前で立っていた。普通にはいればいいのだが、俺も人間だ。嫌われてしまっている人の部屋に入るのには、それそうの勇気がいる。

「さてと……おーい那奈美。少しいいか、宗吾だ。入っていいか」

ノックをしたが、返事がない。しかし、部屋から、光が漏れているから、恐らく那奈美は、この部屋にいるはずなのだが、聞こえなかったのか?

俺は、不思議に思いもう一度部屋をノックする。

「おーい、那奈美入るぞー!」

先ほどよりも大きな声でドアに向かって声をかけるが、返事がない。俺は、少し無作法だが、部屋に入る。

するとそこには、なにやら机に向かい、電子機器にタッチペンで何かを書く那奈美が赤いジャージ姿でいた。

「おい、那奈美少しいいか?」

部屋に入ったからか声に気が付いた那奈美は、こっちを向かずに、面倒くさそうに答える。

「美夜!?ゴメン悪いけれど、今日中にこのイラストを仕上げないといけないの!」

「あ……あの」

あまりの集中力に、俺を美夜と勘違いする那奈美。俺は仕方なく、那奈美の部屋を見渡すとそこには、大量の美少女フィギュアや、ポスターが飾ってある。

レベルの高い、典型的なオタク部屋に俺は驚くが、那奈美も違和感に気が付いたのか、那奈美は、作業の手を止め、俺の方を向くと、まるで化け物を見た様な顔をした。

「ぎゃあ!そそ、宗吾!なんでアンタがここにいるのよ!」

「いや、ノックはしたぞ」

「そうじゃなくて!きゃあ!見るな、馬鹿!」

まるで裸を見られたように恥ずかしがる那奈美は、咄嗟にタブレットのようなものを隠そうとするのだが、もう時は遅く、俺は、那奈美女の書いていたタブレッドの中身を見てしまった。

タブレッドには、白濁まみれのロリ美少女が複数の男に囲まれて、強引な性交渉をされるものである。

……つまるところの十八禁エロイラストである。

「いやすまん!見るつもりはなかった!絶対に、那奈美が十八禁のエロイラストを描いている所なんて見てな……ぐえ!」

「ばっちり見ているじゃない!ちょっと待ってなさい!私もたった今、話したいことができたから!三分待ってなさい!支度するから!」

那奈美の飛ばしたタッチペンが、俺の目に当たり、非常に痛かったが、そう言ったことを気にしている暇がないほど那奈美は慌てていたのだ。

その後も手元にあるものをガンガン俺に投げつけてくる那奈美に耐え切れず、俺はひとまず、部屋を出ることにした。

「分かった!待っているから!物を、物をなげないで!」


 それからきっかり、三分後、俺の体も引いた頃、部屋の中から那奈美のむすっとした声が聞こえる。

「はいっていいわよ」

「なにも投げないか?」

「投げないから入りなさいよ!馬鹿!」

理不尽な罵声を浴びながら、俺は、恐る恐る部屋に入ると、パソコンの電源は、落とされ、そこら中に散らばっていた物は、片付いていた。

「し……失礼します……」

正直、会社の社長室に入る時より緊張していた。あの時は、お互いの素性が分かったうえでの話だから、覚悟していっていたからいいが、那奈美の場合は、次にカナヅチが飛んでくるかもしれない恐怖もあったが、そんなことはなかった。

「なに立っているのよ。そんなに女の子の部屋だと緊張する?座りなさいよ」

「いや、女の子の部屋というよりは、オタク部屋……」

「う……うるさい!座りなさい!」

俺は、那奈美に促されるまま、椅子に座る。向いに座る那奈美だが、美湖さんたちと会った時同様、その顔は、不機嫌の権化だった。

「……なによ、なに黙っているの、話したいことがあるのでしょう。気まぐれで来たなら、私から話すわよ」

「い、いやそんなことはない!話させてくれ!内容は、今までの謝罪とこれからなのだが」

「ふん、いつか来るとは思っていたけれどまさか今だとは思わなかった」

そっぽを向く那奈美。相当ご立腹のようだったが、話さないと始まらないため、俺は、勇気をもって切り出した。

「あ……あのさ、初めて会った時、失礼なことを言ってゴメン!きっと俺の態度が気に入らなかったんだよな!怒らせた理由は、分からないけどさ……そのこれから一緒に暮らしていくし、このまま、仲が悪いままなのは、俺だっていやだから、一度謝らせてくれ!」

俺は、誠意をこめて頭を下げる。那奈美もそんな俺を邪険に扱うことはなく、呆れた様にため息をついた。

「はぁ……まあいいわよ。きっと今のアンタじゃ私が怒った理由なんてわからないし、行った所で腹の虫がおさまる訳じゃないけれど……とりあえず、あの態度については許すわ。宗吾のことは、いまだに嫌いだけれど。で、聞きたいのはそれだけ?」

意外だった。俺は、何発か殴られる覚悟もしていたが、そんなことは一切なく俺の謝罪を聞いてくれた。

「まあ、本題はそれだが……あとは、ご趣味とか聞いておこうかと、ほら、今後一緒に暮らすわけだし、お互い理解を深めようと思って!」

「お見合いじゃないんだから……それに私の部屋を見れば、趣味なんてすぐに分かるじゃない……まあ、趣味については、宗吾にも話しておく必要があったからいいけどさ」

まあ確かに分かる。俗にいうオタクだろう。きっと、那奈美の話したいことも趣味に関係することだと思うから問題はなかった。

「オタク趣味か?それともエロ絵師だったという事か?」

「ぐ……分かっているじゃない。話しが早くて助かるけどしっかりそう言われるとなんだか腹が立つ。そうですよー!私は、湯上の巫女見習いなんていうのは、夜をしのぐ仮の姿!本性は、ガチオタ兼今をときめくエロイラストレーター、白濁々イカ丸ですが!何か問題でもあるかしら!」

「まて、今ググってる」

「ググるなボケ!」

ヤケクソに答える那奈美、しかし最低に下品なペンネームだ。俺は、とりあえず、那奈美を無視し、お絵かきサイトを開き、白濁々イカ丸のページを開くと、そこには、様々な幼女のエロ絵が張られている。

「現役jkがエロ絵師とか……それに、絵を見る限りモデルは、七重か……いいのか土地神様のあられのない姿をネットに投稿して」

イカ丸さんのページには、狐耳ロリのエロ画像がいっぱい書かれている。二次元風にはなっているが、完全にモデルは、七重である。

俺の指摘に、イカ丸先生……もとい、那奈美は、本気で恥ずかしそうな表情をしている。

「しょ……しょうがないじゃない。美夜をモデルにしたらほとんど自分のエロ絵みたいになるし、七重様ならモデルにしてもいいかなって……」

「いいかなって!アホか!七重が見たら卒倒ものだぞ!」

「しょうがないじゃない!獣ロリが目の前にいて、興奮しないオタクがいる!?否いない!普通に最高ですが!JK(じょうこう)!」

余りの恥ずかしさからか、完全にテンションがぶっ壊れた那奈美。セリフの節々にネットスラングが散りばめられていて、どこから突っ込めばいいのか分からなくなっていた。

「うわ、しかもイカ丸先生R18ランキング一位ですか……」

「良いじゃない!エロ!エロは、オタクを救う!」

「女性なのに女の子の裸ばっかり書いて、那奈美は、レズか?」

「レズじゃないわよ!女の子の方が、美少女の体は、熟知しているんだから!なんたって生まれてこの方ずっと女の子なんですから!男には、分からないのよ!ブラのホッグの構造とか、女性器の形とか!」

「大丈夫だ。この世の中、同性愛差別する奴なんていないんだから、恥ずかしがるな。俺は、どんな性癖があっても……グエ!」

俺は、那奈美の性癖を理解した上で話そうとしたのに、那奈美はタッチペンを俺の目を的確に狙い投げつけてくる。

「だーかーら!私は、美少女が大好きなの!それに私だって、まさか、コミケに出店したら、二回目からは、壁サークルになるなんて思ってなかったわよ!大変だったんだから!七重様にバレないようにアニメに興味のない美夜と一緒に夏コミに出店したり、売上金をお母さんに見つかって、変な犯罪にかかわっていないかって心配されたり!ツイッターで男のふりをしてツイートしていたら、女だってバレてるし!引くでしょう!ドン引きでしょ!アハハ!キモイよね!私の描いた七重様のエロ絵で数万人のモテないキモオタたちが、自分のイチモツを握ってセンズリこいているのよ!私の中の七重様は、白濁まみれのチンカスまみれなの!最低だと思うわよ!あはははははは!」

ぶっ壊れた。なんか色々なものが那奈美の中で限界突破してしまい、言動が自虐的になってしまっている。

狂ったように机を叩くし、眼から明りが消えているし!

「お……落ち着け!俺は、那奈美の絵最高だと思うぞ!」

俺の安易な慰めであったが、ぴくっと、那奈美の動きが止まる。じっと俺の方を恥ずかしそうに見つめるとボソッと聞いてくる。

「本当?」

「嘘はつかない」

「最高?」

「最高」

「シコい?」

「しこ?ああ、シコい」

突然の那奈美女の質問攻めに俺は、全て肯定する。正直絵は、上手いし、十分絵描きとして生きていける才能は、あると思う。

一部良く分からない表現はあったが、俺の言葉に嘘はない。

それを聞いてか、那奈美は、嬉しそうに頬を緩ませて、気持ち悪いくらいにニマニマする。

「そっか……嬉しいな。ふふふ」

「おう、喜べ!俺は、死を選ぶようなどうしようもない人生を送ってしまったが、審美眼は本物だ!これなら絶対にプロになれる!」

俺は、心からの称賛をする。確かに、エロでも食っては、行ける。しかし一般向けに描けば、商業デビュー、具体的には、ゲームのキービジュアル、画集なんかも描いて今以上に有名になれるはず。きっと金があったら俺も投資していた。それぐらいのうまさがあった。

しかし、俺の称賛を聞いて、正気に戻ったのか、那奈美は恥ずかしそうにソッポを向く。

「フン!嬉しくなんてないんだから!別に商業デビューするつもりもありませんから!」

「生ツンデレ、初めて見た。しかしここで言われても全然嬉しくないのはなぜだろう」

「ツンデレしとらんわ!妄想乙!かえって、どうぞ!」

「などと供述しており」

「な!ネットスラング返し!もしや、宗吾もネラーかオタク?」

「いや、グーグル先生で調べて覚えた」

「失せろ!ニワカが!」

うん、七重がスマフォを使いこなしていた時、同様こいつらは、俺の幻想をぶち壊してくるのだろうか。俺の神様や巫女さんのイメージが完全に崩れた。

二人とももう少し、美夜を見習ってくれ。

「まあ、なんとなく那奈美の素性が分かった。で、聞きたいのだが、那奈美は、オープンオタクなのか?」

「……隠れオタです。知っているのは、家族と七重様だけ……七重様に関しては、絵師であることは、隠しているわ。内容が内容なので」

予想通りだった。なんとなく、那奈美は、隠れオタクな気がしていた。初めて会った時もそれなりに化粧もうまかったし、俺がここの部屋に来るまで、オタクの鱗片すら見せなかったからな。

「まあ、そうだな。なら、それをダシに少し那奈美を脅してやるか」

「お……おど!そ……宗吾アンタまさか、私をエロ同人みたいにあんな目やこんな目に」

「せんわ!強引な性交渉は、犯罪だからな!」

なんと想像力が豊かなのだろうか、まあこれぐらいの想像力が無きゃオタクなんてできないか、まあ、確かに俺の言葉も少し、悪かったのは、口には出さないが反省だけは、しておくことにした。

「じゃあなによ?悪いけど、体は、奪えても、私の心までは、落とせないからね」

訝しげな表情で那奈美は、俺を睨みつけてくる。いや、体目当てじゃないって言ったそばから、コイツは、とんでもない妄想をしてくる。とっとと、内容を言わないと話の収拾がつかなくなってしまう。

「いや、仲良くしようとまでは言わないからさ……その、友達くらいにはしてくれないか?流石に嫌われたままだと俺も流石に辛いから」

「ほ……ほえ?」

予想外とでも言いたげな目で俺を見る那奈美だったが、そこまで驚くことなのだろうか、むしろいやらしい事より想像つくはずなのだが。

しかし、正気を取り戻した少し不機嫌そうにするが、手を俺の方に出してくる。

俺は驚いてしまい動きが止まるが、那奈美は、恥ずかしそうに言う。

「私は、アンタのことが嫌いだし許さない、けど、別にあんたの事認めてもいい」

「あ……ああ、よろしく那奈美」

「よろしく」

俺達は、和解まではいかないが、お互いのことを認め合うことができて俺は、ホッと一息付けた。

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