第2話もふもふと天使な妹

翌日からは、話が早く、俺は、これから通う高校の学力試験を受け、黒川家の空き部屋を借り、身支度を始める。死のうとしていたので、東京にいた頃の荷物は全て売り払っていたので荷物はほぼなく、その日の夜には、必要な手続きはすべて終わっていた。

「しかし、宗吾も真面目じゃのう……。明日から旅館の手伝いもするなど。美湖は、せんでもいいといったのに」

「そう言う訳にもいかない。働かざるもの食うべからず。ここでこれから暮らすなら、最低限、人として当たり前なことはさせてもらうさ」

俺達は、座布団に座り、まだ時期が早く酸っぱいミカンを食べながら駄弁っていた。内容としては、俺がここで過ごしていく条件だ。

美湖さんたちは、客人扱いだから、別に旅館で働かなくてもいいと言われたが、俺もそこまでお金がある訳ではない。

アルバイトでも何でもいいと無理を言い、旅館で働かせてもらうことにしたのだ。俺だって、七重から解放されたら、華麗なる終活を迎える予定だが、それまでの間に後悔をしたら死ぬに死ねないという苦し紛れな理由だが、七重は、そんな俺を不思議と言った。

「まあ、妾としてもこの町の人口を増やしてくれれば何も言わんがのう」

「まあ、そっちはあまり期待しないで待っていてくれ」

「わかった。大層期待しておるからな……ふあ、眠くなってきたぞ」

大きな欠伸をする七重、確かに今日は、日中は、一緒に学校へ行き、さらには荷物整理や部屋の掃除など手伝ってもらったから疲れもするだろうが……

「なんだ神様も眠くなるんだな」

「なにを、いう……神は、本来そう言ったことを必要とはしない。しかし、寝るしたべ……る……のも、趣味……くぅ」

そんな話をしているうちに、七重は、机にほほを載せてぐっすりと寝はじめた。

「やれやれ、寝落ちとは、つくづく神様らしくない神様だよ」

俺は、七重にタオルケットを掛け、那奈美の部屋に行こうとする。那奈美は、おとといの一件からロクな会話をしていない。

これから暮らすのだ。和解はできなくてもお互い理解をしておかないといけないと思いその場を立とうとすると、部屋の戸がトントンに叩かれる。

「あの~、宗吾さんお休みの所失礼いたします。美夜です。お時間よろしいでしょうか」

「ん?美夜か……どうしたんだろう?入っていいぞ。七重が寝ているから、適当な所に座ってくれ」

俺が、そう言うと、結んだ髪の毛を降ろし、ピンク色のパジャマ姿の美夜が恥ずかしそうに俺の部屋に入ってくる。

「あ、ありがとうございます。宗吾さん、すみませんお休み中。少しだけお話がしたくて……寝ている七重様可愛いです」

「そ、ソダネ……お、おふぅ」

「どうしました?」

「なんでもないです!そ、それでどうした?」

嘘です。

俺の隣に座った美夜の少しきつそうなパジャマに目が行っていました。はち切れそうな胸元に視線が集中していました。しょうがないよね、男の子だもん。

しかし、美夜は、そんな俺の視線に気が付くことも無く、話し始める。

那奈美の一件があってから、美夜は、申し訳なさそうにいつも俺を見ては、謝ってくる。意地っ張りな那奈美と違い、美夜は、どこか自信が無い所がある、そう言ったところから罪悪感からだろうが、もう俺の中では結論ついている事だった。

「いや、前も言ったが、俺が謝るべきことだから、美夜は、謝らなくていいから」

「そ……そうですか……。じゃあ、少し何も駆け引きなしのお話をしませんか?これからは、一緒に暮らすのですから、好きな食べ物とか聞いておきたいなあって!おもいまして……その、特に深い意味は、無いです。別に宗吾さんが喋りたくないのなら私には構わなくてもいいですから」

もじもじとそっぽを向く美夜。とても甲斐甲斐しいが、自分の家ではあるが、俺がいると落ち着かないのだろう。

「大丈夫だ、問題ない」

俺も頑張って、素っ気なさを演出するが、我ながら女性とこうやって二人で話す経験などあまりなかったからか、俺まで恥ずかしくなってしまう。

「あ、ありがとうございます!良かった……もっと怖い人だったらどうしようと思ってしまいましたよ。優しそうな方で安心しました」

「怖そうって……俺は、どう思われていたんだ」

「えーと、新聞とかでお見受けした印象とお姉ちゃんと喧嘩していた印象がありまして、申し訳ないのですが、とても冷たい人かと思っていました」

あぁ、それ前の学校でも同じようなこと言われたな。慣れてはいるが、やはり面と向かって言われると中二病みたいでとても恥ずかしい。

「そんなこと無いぞ?俺だって、好き嫌いはある。例えば、甘いものは好きだが、セロリみたいな癖のあるものは、好まない。それに映画も好きだ。ホラー映画なんて大好きだぞ。あのハラハラ感がたまらない」

「私も、甘いものは大好きです!よくお姉ちゃんと隣町にあるパフェを食べに行くんですよ!今度一緒に行きましょう!」

「ほほう、それは、もしやチョコバナナパフェか?俺は、うるさいぞ。下までチョコが入っていないのは、パフェとは認めないからな!」

「あはは、大丈夫です!トッピングチョコソースを自由に追加できますから」

「なん……だと。そんな素敵システムがあっていいのか!」

チョコバナナパフェにチョコのトッピングそんな麻薬のような言葉に俺は、ついつい頬を緩ませてしまう。

それを見て、美夜は、面白そうに笑う。

「ふふ、なんだ、良かった。お姉ちゃんが、宗吾さんのことを悪く言うから、どんな悪い人かと思いましたが面白い人ですね」

「たく……なぜ那奈美は、俺のことをあんなに嫌うのか。確かに、俺が那奈美を怒らせたのかもしれないが、理由がさっぱり分からん」

俺が頭を抱えると、美夜は、俺の頭を優しくなでてくる。

「お姉ちゃんは、きっと何か理由があって怒っているのかもしれないですが、お姉ちゃんも素直ではないですから。聞いても答えてはくれないかも知れないです。そんな状態で、理不尽に怒られてもなお、そうやって、自分の悪い所を認められるのは宗吾さんの良い所だと思います。ゆっくりでいいです。お姉ちゃんも、意地っ張りですが、話を聞けない人じゃないです。きっと仲良くなれます」

「美夜……お前が天使か」

「ふぇ!天使!?そんなことないですよ……ほら、恥ずかしいからって、からかわないでください」

美夜は、そう言うと俺の頭をなでてくれる。同い年に頭を撫でられるのは、恥ずかしいが、ここまでちゃんとした人の善意に触れるのはいつぶりだろうか。

今まで、資産家という立場上、金や権力と言ったものを目当てに近づいてくる親族や以西はいたが、そいつらは総じて俺の事なんて見ていない。

だからか、美夜の手は、優しく温かい。

「美夜は、優しくていい奴だな。普通に出会っていれば、確実に好きな女の子になっていたかもしれない」

「あはは、宗吾さんたら上手です。私なんか、お姉ちゃんのオマケみたいなものですよ」

少し卑屈そうに笑う美夜だった。

双子の妹として、きっと那奈美と比べられることが多かったのかもしれない。しかし、そんなのは、来たばっかりの俺には関係ない。

こんな優しさを持っている少女が持てないはずがないと思う。

「美夜は、美夜だよ……俺は、絶対に人を上辺だけじゃ比べない自信はある。なんせ俺は、元高校生資産家だった男だぞ?審美眼は、それなりにあると思っている」

「宗吾さん……優しいんですね」

「俺は優しくない。現に那奈美を傷つけたし、きっと今まで、立場上傷つけた人なんて星の数ほどいるはずだ」

俺は優しくない。滅多に人を信用なんてしないし、周りには、俺の金を目当てにうごめく化け物でいっぱいだった。

そんな中、一人で生きて行くには、情や優しさを捨てていった。

その結果として、俺は、那奈美を傷つけているのだ。何も変われていない。

そんな事実を伝えるが、美夜は、俺を見て笑う。

「いいえ、優しいです。きっと今から、お姉ちゃんと話しをしに行こうとした時に訪れた私を邪険に扱わずしっかりもてなしてくれました。それだけで私は十分です」

「美夜……なんで知っていだ」

「分かります。だって、私が部屋に入った時、宗吾さんは、凄く真剣な顔で立っていたのですから。それにこんな優しい人が、お姉ちゃんを放っておくなんて絶対にしないはずですから」

確かにあっている。美夜の洞察力に俺は、驚きを隠せないが、きっとそれも彼女の持ち味、優しさなのかもしれない。

「本当にいい奴だな、美夜」

「そんなことないです!私だって、人を羨みます。妬みますし、嫌いになったりだってします。そんな人間が優しいはずないです!」

前向きな目で、後ろ向きな事を言う美夜。どこか見覚えがあると思ったが、これは、昔の俺の様だった。

いてもたってもいられなくなり、俺は、ついつい美夜の頭をなでてしまう。

「はう!な!なんでしょう!な……撫でないでください!」

「いやだ。そんな昔の俺みたいに悲しい顔をする女の子を見て、何もしない俺じゃないぞ!と言ってもこんな事しかできないけれどさ」

「うぅぅ……同年代に撫でられると恥ずかしいです」

「美夜も俺にしてくれたろうお返しだ」

「そうですが……するとされるのでは、違うから……うぐぐ」

俺にでも分かりやすく、顔を赤くする美夜は、恥ずかしさのあまりそっぽを向いてしまう。

「そ……宗吾さん。私より、今は、お姉ちゃんとお話しするべきです……」

「そうだが、良いのか?まだ何か聞くことがあったんじゃないのか?」

訪ねてきたのは、美夜だった。きっと他にも話すことがあるはずなのだが、美夜は、俺に顔を見せないまま語る。

「私は、宗吾さんと仲良くなりたかっただけですから……それに私も、このまま、お姉ちゃんと宗吾さんの仲が悪いままなんて嫌ですから!今の時間なら、きっと部屋にいるはずです……うぅ、喋りにくいです、撫でないでください」

「すまん、美夜がいいならいいのだが、俺は、少し殴られに行ってくる」

「な!殴られないでくいださい!仲直りしてください!」

俺の冗談に真剣に答えてくれる美夜。しかし、こういう真面目そうなところは、きっと那奈美と姉妹である証拠なんだろう。

俺は、少し惜しくも、美夜の頭から手を放し立ちあがった。

「美夜、ありがとう……ちょっと勇気が出た。那奈美の部屋に行ってくるよ。ちゃんと話がしたいしな」

「行ってきてください。私は、七重様をモフモフしていますから」

そう言うと、美夜は、七重のしっぽに顔をうずめた。

「ありがとう行ってくる」

俺は、七重のしっぽをモフモフしている美夜に声をかけ部屋を出ていった。

「宗吾は、行ったか……美夜、しっぽをモフられるのは、かまわないのじゃが、ちと離れんか?妾だって、寝にくいのじゃ」

「七重様……起きてらっしゃったのですね。すみません……もう少しモフらせてください」

「やれやれ……まあ良いが……」

「覚えてないんだろうな王子様。もう……」

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