第13話 観光
退屈な戦場から戻り約束通り皇国カードを発行してもらう。すでに準備は整っているようで今は隊長になっているドゥガンを登録者とした。ベリアスとは監獄を出てすぐ別れ今度こそ観光といくかとドゥガン隊は張り切る。その前に一応プラチナランクにするべくギルド本部へと赴く。本部というだけあって天井も高く広く豪華な印象を受ける。三階建てで集う連中もオルマトイと違って品がありそうな者ばかりだ。そしてそこに明らかに場違いな長身のハイエルフにドワーフのドゥガンとその中間くらいの背丈なダークエルフのエリル、そして地味な爺。他の連中は勲章を付けて堂々としているものの我々は誰も付けずに真っ直ぐ受付へ向かう。最初から冒険者に頓着していないのでいいが装備は私以外は素晴らしいものだがどうしてもゴロツキのように見えてしまうようで周囲がざわつく。
完了書を受付に出すとオルマトイのときと同様に驚かれ同じようにギルド長の部屋まで駆け上がる。どの道会うのだろうと思い追って上がっていく。途中で受付の女にすれ違いやはりギルド長への面会を言い渡された。三階に着くと中々の見晴らしで少し目的を忘れて景観を楽しむ。待たせてもあれなので私が軽く催促してギルド長の部屋に入る。今度のギルド長は見た目はまともな婆さんだ。茶と菓子はない。
「私の名はユーラウス・シェルフィ。一応第六位の王女よ」ここに来て今度は婆さんとはいえ王女と知り合うことになった。しかし第六位といえば酔って絡んできたジャックスとかいう馬鹿よりも腕前は上ということか。
「冒険者登録と同時にゴールドランク。そして一月でプラチナランク。素晴らしい働きね」婆さんは笑っている。だが何か腹に一物ある感じがする。それは皆も同じようで席に座ろうともしない。これでは先に進まないようなので私から座りそれを皆も見るも婆さんから視線を一切離さずに座る。
「何か話があるんだろ」ドゥガンはさっさと話せといったそっけない態度で婆さんに手を差し出し催促する。
「ええ、あるわ。簡単な依頼よ。ある書状をある人まで届ける。単純な配達よ」今プラチナランク面接中の依頼にしては余りにも簡単すぎる。誰が聞いてもそう思うだろう。
「疑問はもっともね。でも皇国から公国への書状なの。それも非公式のね。依頼主には一月前に既に会っていると聞いているわ。ハインデルよ」全てを知っているように微笑みながら話す。皇女ならばギルド本部の長と皇宮との繋がりも合わして戦についても既に詳細を知っているのだろう。だからこその依頼ということか。
「非公式でも正式な依頼で報酬もあるならいいぜ」ドゥガンは皆に相談せずに決める。どの道反対するとしたら私くらいのものでエリルもファリーシアも賛成だろうから何も言わない。
「それは安心して前金全額払いよ」
ますますもって怪しいがドゥガンは大体の察しは付いたとでもいうようにニヤリと笑い承諾する。婆さんは受付で今の勲章とプラチナランクの勲章と交換して皇宮に行くように指示する。今の時間なら開門されていて誰でも入れるという。着く頃までには案内人を用意しておくようだ。
「ああ、それと気乗りしなくても勲章は付けておいて。大抵の者はそれだけで態度が変わるから絡まれることも少なくなるわよ」おそらく馬鹿の事だろう。
受付に行きゴールドランクの勲章を差し出すとプラチナランクの勲章を渡され前と同じように広間に聞こえるようにドゥガン隊がプラチナランクになったと宣言された。だが今度は絡まれることはなくチラホラと先を越されたといったものや我らは地道に依頼をこなしていくぞという前向きで羨望の眼差しが向けられる。これには皆も私も満更ではなく勲章を胸元に付けてギルド本部を出て皇宮へ向かう。
皇宮への緩やかな坂を上り門までたどり着き背後を見ると壮観な光景が広がる。しばらくその景観を楽しみ門をくぐるとこれまた豪華絢爛な眺めだ。高い天井にまで見事な彫刻と絵画が飾られている。門から続いた奥には見事な庭園が広がる。ひとしきり目の保養をしているとプラチナランクの勲章を目印に案内人が近づきドゥガン隊であることを確認して上階へ上がっていく。上は下と比べると質素に見えるほど普通の建物だ。もちろん手すりから反対側を見れば下から眺めたときとはまた違った景色でいいものだ。五階まで上がり案内人が扉をノックする。
「入れ」と案内人は扉を開き私たちはハインデル皇子に再び会う。
「一月どころか一撃で戦況を覆したとベリアスとピルスから聞いているぞ。ピルスは策が潰れた愚痴ってはいたがな」笑って迎える。だが依頼が依頼なのでまたも席に着こうとはしない。また私が先に座り皆が座ったのを確認してからハインデルは書状を取り出す。
「ここ最近、重要な書状を持った者のうち当たりの者が相次いで襲われている。幸いにも配達した者に大した怪我もなく書状も無事。捕らえたいのだが中々尻尾を掴めなくてね。困っているんだ」それにしては余り困っていない様子だ。一息入れて口を開こうとするところを遮る。
「そこで私たちを囮にしたいわけね」
エリルは単刀直入に切り出す。ハインデルは顔をしかめて頷く。本来ならば自分たちの仕事なのだろうが何度も偽の書状は襲われないところを見ると内部に間者がいることは明らかだ。そこに皇国に縁があるどころか冒険者になりたてだが確かな実力を持つ者に白羽の矢が立ったわけだ。
「面倒だとは思うが徒歩でデンテ公国まで行ってもらいたい。一応気付かれぬように後ろから私の信頼する者を追わせる。そして殺さず生かしてくれ」
観光と思えば次々と問題ごとに巻き込まれていくがドゥガンもエリルもファリーシアも気にしない。むしろ彼らからすれば良い観光ツアーになったと思っているのかもしれない。楽に考えれば歩いて友好国の公国に遊びに行く。その上既に皇国カードを持っている。宿も食い物も楽しもうと思えばいいのだ。
「さて、前金全額払いの条件だが既にカードを持っているが金にするかね、それとも何か特別な地域へ入るための証明書にするかい」ハインデルは地図を投射してデンテ公国の北にある大森林を指差す。
「中立だが非常に閉鎖的でね。皇国の証明書があればエルフの国に入ることは出来る。同じエルフ族でも部族の証がなければ入れないしね。観光するならここは外せないよ」
私たちの目的を分かっているようで私も三人も中々魅力的な提案のようで全員一致で書状狙いの賊を殺さない程度に生かして公国で遊んでからエルフの国に行こうということになった。賊がどれだけ優秀でもスラムで長年生きてきたドゥガンとエリルに魔界から離れたとはいえ六魔将軍の肩書を持つファリーシア、この三人にかかれば私の出る幕もなく終わるだろう。ドゥガンは書状と証明書を受け取る。
「後ろから付いてくる者の紹介は無しかい」
ハインデルは首を振り明かさないようだ。ドゥガンは特に気にせず立ち上がり皆も続いて部屋を去る。扉が閉まったのを確認してからハインデルの部屋の影から彼の信頼する者が現れる。美しいが周囲を凍らせるような気を放つ。彼女の顔は少しだけ歪む。自分がいることを悟られていることに気付かれたことを恥じているようだ。
「君は特別だが彼らが更に特別なだけだよ。気にすることはない。任務を頼むよ」ハインデルは彼女を励ますと同時に彼女の顔は無表情になり窓を開けて消える。
外にいた案内人はいなかったが勝手に散策することなく下に戻る。
「結構出来るよね」エリルは関心するように喋る。
「ああ中々だな」ファリーシアも何かに同意する。
私はハインデル皇子の実力かと思ったがドゥガンから言われる。
「爺さんは分かんなかっただろうがもう一人いたんだよ」それがあの紹介はというセリフの正体だったという。私は全く気が付かなかった。
帰り道にとある馬鹿が街の中、私兵で囲み決闘を申し込んできた。もちろんジャックスという馬鹿である。今回は酔っ払っていないものの剣を振りかざし怒りファリーシアを剣で指して挑発する。彼女は当然やる気はない。明らかに弱く楽しむこともなく一撃済む話だ。とはいえ一応は皇子。簡単に斬って捨てるものでもない。彼女は困って頭をかいている。たとえ素手でも殺してしまう。最初の出来るだけ手加減をした一撃であれなのだから少し手加減を弱めたらどうなるかと思っているとエリルが前に出る。
「お前じゃねえ、そっちのエルフだ。引っ込んでろ」
目の前のファリーシアよりも小柄で弱いと思って油断しているのだろう。隙だらけの構えにエリルはナイフに手を出すことなく拳を握りしめ消えるように突撃していく。防具もなくただの豪華な服に無駄に豪華な剣を持った馬鹿は全く反応出来ずに彼女のフックが左脇腹に突き刺さる。痛みに耐えつつ袈裟斬りするも難なく避けて右にもう一発。膝が落ちようとしたところに苦し紛れの横薙ぎの一閃も彼女には触れることは叶わない。エリルは目の前から消え馬鹿は周囲を見回している。周囲の私兵が後ろだと叫んでいるが彼が振り向き剣を振るう速度よりも圧倒的にエリルは速い。馬鹿はどうにか息を整えて渾身の回転斬りを放つも最後に見たのは華麗な飛び蹴りの体勢を取っている彼女だった。そこで彼の意識は途切れて起き上がり気づいた頃には私たちは公国へ旅立つように去っていくところで付き人は私兵に取り押さえるよう命令するも胸の勲章に気づいて散り散りに逃げていった。
「やっぱり弱ーい」詰まらないようだが殺さずにおくにはエリルが適任だった。
「私のあれに反応出来ない奴がエリルに敵うはずないだろ」ファリーシアは呆れている。彼女からすれば速さだけなら自分以上だという。これまでも退屈しのぎに模擬戦をやっていてエリルだけが互角に渡り合えたそうだ。
「俺がやってもよかったが、俺は売り物に入ってなかったからなあ」ドゥガンは二人を茶化して笑う。エリルに速さで力でファリーシアに劣るもののドワーフの体にしては素早い。彼でも楽勝だったろう。
ひとしきり話題にして後は徒歩の移動となるので幾つかの食料を買い込んでいく。馬の一つも買って荷物持ちにしたかったが途中に関所もあるということだし何より依頼に期限もないし人間界での目的も特にない。急ぐ理由もないということで完全徒歩ということになった。普通の露店などではカードを使えるわけではないようでドゥガンは幾らかの金を皆に渡してしばらくして集合することになった。
私は特に何も欲しいということはなかったが待っているだけのも退屈なので人間界の魔術書などがないか探してマジックアイテムを扱っている店を見つけて入る。店主は勲章を見てもやる気がないようで自由に見て回る。初級魔術書を手に取りぱらぱらとめくって読むが魔界で言われたとおり詠唱ではなく頭の中でイメージし周囲の魔素と体内の魔力を捉えてという発動方法だ。後はイメージの練習方法などが書いてあるだけで役に立つものはなく周りの物も特に興味はなく出ようとしたが一つの本に目が留まった。タイトルは『魔導帝国の謎』どうやらユーラウス皇国から北の砂漠に今も存在しゴーレムが時折見える事もあり遠くから眺める分にはいい所でもあるそうだ。興味が湧いたので買い集合場所に行く。やはり私が一番のようだったがすぐにエリルとファリーシアが一緒に来て少ししてドゥガンがやってきた。
門を出てから兵もいなくなったのを見計らってエリルはポケットから自分とファリーシアに見事の宝飾品の付いた髪飾りを付ける。ドゥガンは明らかに装飾だけで高級そうな酒を胸元から取り出して口をつける。三人の満足そうな顔を見てその瞬間、私は閃いた。
「盗ったね」私の指摘は当たった。三人とも軽く当たり前のように頷く。
「つい盗ってほしそうだったから」エリルは悪びれることなく品物の方が勝手にポケットに向かって入ってきたと言う。
「気付かねえのが馬鹿なんだよ」ドゥガンはちびちびと飲みながらいい酒だと評価しつつ店に文句をつける。
仕方ない。スラムで犯罪組織をまとめ上げて一人は魔界の将軍にまでなった。盗れるものは盗り。殺す者は殺す。そういう世界で生きてきた三人にとって人間界にちょっと来たからといって余りに長い自らの生き方を今更変えることもないしその気もないだろう。むしろ死人が出てないことに感謝だ。
日もそろそろ暮れるかという頃には関所と宿場町を合わせたところに着いたがドゥガンはどうせ襲われるなら開けた場所の方が好都合と言いそのまま抜けていく。私の魔法も支援魔法以外は周囲にかなりの損害を出すので例え襲撃者のような相手には使わなくても外の方がいいと思い反論は当然二人からもない。むしろ襲撃を期待しているようでもある。
月も上がり夜も更けていくがまだ歩いていく。街道の左手は森で右手は川が流れている。私はどうせ襲撃するならいっその事一気に来てもらいたいと思うがやはり仕掛けてくるとしたら寝込みだろうと思っていると前方に何者かの影がある。人にしてはやや大きく唸り声が聞こえる。相手は昼間に決闘と言って絡んできてエリルに素手で完封されたジャックスだが顔も体も血管が隆起しもはや人をやめている雰囲気が漂う。左手には付き人の首を握りつぶして人形のように持ち右手には決闘の時に持っていた剣だ。どうするかと思っているとエリルとファリーシアはじゃんけんをしている。どっちが殺るかだ。
「うーん、負けたか」全く気乗りしないファリーシアは大太刀に手もかけずぶっきらぼうに近づいていく。
間合いに近づいていくとジャックスは左手に握っている元付き人を森に投げ捨て叫びながら力づくで剣を振るう。人を完全にやめた効果は確かに出ている。剣の衝撃波が走るがファリーシアは奴の手を軽くはたき向きを変え腹に拳を叩き込む。今度は吹き飛び転がるような真似はないものの大きく仰け反り後退する。どういう方法で超人になったのか分からないがそれでも彼女との差は天と地ほどの差がある。力任せで叩きつけいつしか剣は折れても攻撃は全て空を斬りその全てに拳を蹴りをカウンターで入れていく。奴は使い物にならなくなった剣を捨てて荒く息を吸いては吐き呼吸を整えてから誰にでも分かるくらい殴りつけようと拳を上げて突撃しようとしている。その瞬間、隙を見て森から伸びる影から実体が出てドゥガンの胸元から若干はみ出ている書状に手を伸ばす。
「おっと、そうはいかねえよ」
ドゥガンは素早く手を捕まえると同時に背後に迫っていたナイフの一撃も手斧で防ぐ。全てお見通しのようで襲撃犯を手早く組み伏せる。犯人の見た目は黒装束に身を包み完全にくノ一といった感じで彼を睨み返す。ドゥガンは一瞬気づいて彼女を殴り倒して気絶させ急いで首の脈に手を当てる。どうやら自殺を防ぐためで成功のようだ。
そのやり取りの間にジャックスとの戦闘も決着はついた。飽きたファリーシアは大太刀に手を伸ばし彼の突撃と同時に奴の股をスライディングでくぐりながら真っ二つにする。彼女を振り向くだけの力は残っていたがそこで奴の体はそれぞれ大地に分かれて死んだ。体は空気が抜けたように力が抜けていき普通の体に戻っていく。
「おい姉ちゃん。出てきてくれや」ドゥガンは後ろに向かって言う。漆黒のハイレグに皇国の紋章が小さく入った申し訳程度の革鎧を着た女性が現れる。彼は彼女に襲撃犯を渡して森に親指で指差し何かの合図をする。
「既に仲間が追っています。ご安心を」音もなく現れた彼女以外にもいたのかと私はまたも全く気が付かなかった。しかし賊は一人とも限らないことを考えれば彼女も隊を率いていると考えるほうが自然だろう。
「彼のことはこちらで処理致します」そう言うと控えと思われる同じ様な者を呼び出し賊の一人を預けて自らも森に入り追跡に移る。
「んじゃ、もうちょっとだけ歩いてから寝るか」ドゥガンもエリルもファリーシアも今しがたのことを気にせず去っていく。気が触れたとはいえ一応は皇子を殺したことなんか全く気にしていない。置いていかれてはいかんと私も足早についていく。
キャンプをしめいめい適当な食事をしてまったりとした時間がながれている、はずなのだが私以外の三人が森に視線を向けている。まだ何かいるのかとドゥガンに聞こうとすると軽く制された。そろそろ出てくるという。そうすると森から自らの顔を晒したまま黒装束の賊が出てきた。顔を出しているのは敵意がない証拠ということかナイフといった武器も持ってはいないが表情からは恥がはっきり見える。
「こんなことを依頼するのをおかしいと思うが聞き入れて欲しい。妹たちを助けてくれ」女は直立しているが顔だけはこちらを正視出来ぬようだ。先程まで書状を狙いその為なら生命も頂くという事をしていたのにもかかわらずこの依頼は本当におかしい。
「報酬はあるのかい」ドゥガンはヒゲをいじり耳をほじりながら興味なさそうに聞く。
「考えつかない」女は即答する。既に用意していたようだ。
ドゥガンはエリル、ファリーシア、私と順に見ながらこの依頼をどうするかという問題を聞いているようだった。エリルとファリーシアは興味がないようだ。私としてもいきなりのおかしな依頼を前にどうするかと悩んでしまう。どうもドゥガンは私の一存で決めてもいいという雰囲気でもある。少し思案して彼に頷く。
「じゃ、やるか。話してみろ」ドゥガンは女に詳細を教えるように促す。
依頼内容は間者としての育成機関で育てられている妹たちに魔法の首輪がはめられていて今回の失敗でほぼ確実に誰かの首輪の魔法が発動して死ぬという。今回の任務は間違いなく失敗。このことを主が知れば誰かが確実に、というわけだ。エリルはその男を殺せばいいと言うが彼女は彼が死ぬと首輪を付けられた全員が死ぬようになっているともいう。そこで魔法を使える爺が彼女らの住処に行き三人はそのまま何事もなく旅を続けることになった。
「我らに敏捷の加護を アジリティ」
「我らに体力の加護を エンデュランス」
私は彼女と自分に敏捷と体力の魔法をかける。彼女は自らに湧く力に驚きつつもすぐに気持ちを切り替えて森の中へ入るようにと手招きする。自力では彼女の方が素早いために私は彼女が時折木の枝に止まる姿と月の光を頼りに走り抜けていく。森と林と藪を掻き抜けてどうにか私たちは夜が明ける前にデンテ公国の外れへとついた。彼女らの住処はこの近くで今も彼女らの主は現在の公国君主のパーティーに顔を出していることを確認済みとのことだ。
彼女が先行して行き途中にロウソクを灯しながら進んでいく。幾つか扉を抜けていくと彼女が待っていた。この先に妹たちはいるようだ。私は意を決して飛び込む。するとそこには誰もいない。おかしいと思った瞬間、私を半透明の青い牢が囲んでいく。
「捕獲完了だ」声のする方を見るとハーフリングの男が骨付き肉を齧り酒を飲みながら私を嘲笑っている。助けて欲しいと言った彼女はすぐに彼のそばに跪き任務の完了を伝える。ご苦労と言い下がらせる。
「お人好しだな。まあお前のお蔭で使えるカードが出来たよ」男はそばに置いてある山と盛られた料理を次から次へと手を付け平らげていく。その小さな体のどこにその量が入るのか。
「騙されたのか……」おそらくドゥガンらは察していたのだろう。牢の中でうなだれて座り込む。浅はかだな、私は。
「この辺一体は俺の領地で俺たち以外誰もいねえ。助けも絶対に来ねえ。諦めて取引の材料になりな。生命だけは助けてやる」その言葉だけで十分だった。そうか、そうなのか。私は魔術書に目を通していると忠告される。
「その牢は強力な魔法で作られてる。どんな魔法でも無効化できる。お前がどれだけ凄い魔法使いでも無駄さ」
そう聞きながらも魔術書からお目当ての魔法を見つける。前にも見たが周辺に味方がいると使えないので諦めていたが使う機会が出来た。さて、セルフバーニングで燃やし尽くすかアイスブラストで凍りつかせるか迷うところだ。男が何か挑発をしているが気にしない。無効化するというのなら本気でやっていいということだ。そしてふと脳裏に浮かんだ言葉で何にするか決めた。やってやる。
「我が身に流れる雷狂い乱れよ セルフ・サンダーストーム!!」
生物の中を駆け巡る生体電流。それを周囲の魔素と自らの魔力を合わせて作り出した雷の嵐を撒き散らす。無効化出来るという檻も最初はそれを証明していたがすぐに雷光と共に砕け散り周囲は雷による火花が咲き乱れる。男もそれに驚き逃げようとするが余りに遅かった。自分の領地に彼ら以外がいる建物などは何もなかったのは本当だったが天空には分厚い雷雲が出ている。私の魔法に呼応するように雷を落としながら威力を増していく。そして私の奥底から湧き上がる魔力と失望と怒りと雄叫びと共に一帯が雷光によって輝き爆音と共に私を残して全て消え去った。辺りを見回せばもう何も残ってない荒野になっている。気持ちはすっきりしたものの、やはり。
「やりすぎたかな」ついつい反省してしまう。
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