第10話 人界

 ひとしきり寝転がり休息を終えるとドゥガンは近くの村に行こうと提案する。スラムから持ち出した金は都市部でも豪遊できるほどでこれから行く村の収入は少なく素性が怪しくとも金払いがよければ口が堅いという。ここに来てまでごたごたを起こしたくないのは皆同じだし風呂はないだろうが水浴びでもしたいところだ。


 今から行く村はカルペという小さな村だ。ユーラウス皇国という領土の端でその先は見るべきものも採れるものも大したものがない荒野が広がっている。荒野は昼間は暑く夜は寒く雨季になれば大河になるものの濁流になるため漁にも適さない。乾季の時、極稀に酔狂な行商や旅人がふらりとやってきて路銀を落とすか一年の限られた時期に森に生る錬金術や魔術の触媒に使える貴重な植物だけでどうにか一年を越すという。皇国からは徴収官がやってくる以外にない。領土を接しているデンテ公国とは友好を保ち軍事力を顕示するよりは経済力で生きている国だそうだ。だから国もこの村に余計な兵は置かないし皇国から来る行商も旅人も安全で距離も近い公国へ向こうのにこの村を通るのはほぼ無い。それよりも頻度の高い客は森からやってくるドワーフ。つまりドゥガンだ。ここは村を一望出来る高台の近くともあり細いながらも道はあるのでそこから下りていく。無言で進む。疲れているのか青空と太陽が慣れないのかエリルとファリーシアは不気味そうに空と雲と魔界の昼や夜に見る巨大な月と比べて非常に小さい太陽を木陰から何度も見ている。ドゥガンは慣れているようで少々二人を心配しているようだ。私は久しぶりの青空と小さく温かい日の光を嬉しく思う。例えここが私の知らない人間界だとしても。


 カルペ村に着くと随分と荒れ果てて活気が全くない。辺境の村とはこんなものかとドゥガン以外の三人は思っているとドゥガンはおかしいと言う。前に来た時は二ヶ月前くらいだったがその時は人はまだ外に出て談笑もしていたという。ファリーシアやエリルは集中して気配を探った結果住民は皆何かを恐れて閉じこもっているようだという。ドゥガンは村一つの宿屋の戸を開けようとするが閉められている。窓も同じく他の住居も閉め切っている。


 「おーい、俺だ、ドゥガンだ。中に入れてくれ」

 戸を叩くと少しして閂を外す音がする用心するように戸を開けて馴染みのドワーフとそうではない三人を見るも恐れている何かではないと分かり小さく手招きをする。中は光も殆ど入らないにも関わらず明かりはロウソク一つ無い。一体何に恐れているのかと宿の主人に尋ねる。


 「今、村はどういうわけか野盗の群れに襲われています。あるはずもない金品を要求し差し出さなければ十日後に村を焼いてから奪うと言うのです」

 主人はわけが分からないと取り乱そうとするもこの声が奴らに聞こえるかと思うと必死に声をひそめる。本当に無いと分かれば期限なんか忘れて今すぐに燃やしかねないと危惧しているのだろう。だが対策はあるという。村一番の早馬と念の為に伝書鳩でも討伐の願いを託したという。まだ野盗の言った日から七日で計算では馬も鳩も既に着いて皮算用ではあるものの九日の夜には何もない村とはいえ国境の村だから幾らかでも着いてくれれば正規兵数名でも皇国ならば野盗ごとき百や二百はいけるという。そう聞くと村の皇国側からの道から下卑た声が聞こえてくる。


 「お前らが出した馬の首と男の首、二つお届けえっと。げひゃははは。馬鹿なことしたから一日早くしてやるぜ。待ってろクソども」

 どうやら早馬の方は失敗のようだ。野盗は付近の住居に石を投げて挑発し笑いながら去っていく。村の主人は早馬の男の妻に何と言えばいいかと頭を悩ませるも、あと二日になってしまい鳩が想定より早く着き急いで兵が向かっているようにと祈っている。


 「何だったら今から投げてったあいつも含めて皆殺しにしてやろうか」ファリーシアが気を利かせてなのか主人に提案する。彼は見た目で彼女を判断しているようだから親切心で止めてくれる。だが彼女は本気のようで行動に移そうとする。


 「おい待て、ファリーシア」ドゥガンが止める。ファリーシアは何故止めるのかといった顔である。ドゥガンはこの場所においては当たり前だが現状を見ればおかしなことを言う。


 「一眠りして何か腹に入れてからにしねえかよ。それに馬鹿は二日後には全部来るんだろ。それでからでもいいんじゃねえか」

 ファリーシアもそう言われれば腹も減ってるしほんの少しまで上位天使と争い人間界への素晴らしい転送もあり疲労もしている。あごに指をおいて考えてそれもそうだと賛成し主人に何でもいいから食い物と飲み物をくれと言う。その光景に呆れながら反論するもドゥガンの出した金貨二十枚を見て欲を出し少しだけ元気が出て隠しておいた材料で料理を始めビールを四つ出す。ドゥガンとファリーシアは一気に飲み干しエリルは普通にゆっくりと飲んでいる。私はというと喉が乾いているのもあるので飲む。やはり不味い。お先に休もうと二階の部屋割りを尋ねるとベッド二つと粗末な調度品だけのものが二つという。私は奥の部屋で休むといってその場を後にする。


 スラムのベッドと大差ないものに寝転がりながら冥界の女王の言ったことは何かと考えたり人間界に来てから空気というか魔素の室と密度が変わったことにも考えをめぐらす。冥界のことは一先ず置いておくとして魔素は当初、転送装置の破壊によって湧いたのと思ったがそうではないのが分かる。この部屋においてもカビ臭さとは違った魔素の香りが漂うのだ。この魔素は先程放たれた首によるものと思われる死と周囲に広がる森の自然の大きな力を感じる。思い出して人間界のことが書いていないかと初心者用魔術書を読むが何故か魔界のことだけでまるで人間用でありながら最初から魔界にいることを想定した異常なものであることに気づく。どういうことかと思いながらもう一つの日記も思い出す。大魔王の日記とはいえもしかしたらと思ったがやはり人間界のことは書いていない。だが無意識でのみ開けたページが普通にめくれる。これは私の中に残っていた大魔王の魂が消えたからだろうか。とりあえず読む。日記の書き出しは中途半端だ。


 第十八次魔界大戦 十二年一月某日 未だに記憶が定かでないが生きている。死ぬまでの間、戯れに日記を今からつける。拾ってもらった傭兵隊は人でも塵でも糞でも働いて敵を殺すなら良いそうで記憶を失っていようが気にしない。ただ一つ掟は魔法を使わず突撃あるのみ。だから記憶も無く持っていた魔術書はただの重しだ。幸い肉体がこの世界に順応して体躯こそ変わらぬものの強くなっていく。


 十二年三月某日 いきなり日付が飛んだが仕方ない。隊長は戦死し敵に囲まれた中をどうにか突破して休息がとれたのは今この時なのだから。しかしこの隊の魔法嫌いは凄まじい。隊長首が目前に迫っていても魔法隊があれば真っ先に向かい魔法と正面対峙しながら斬り伏せていく。まだ下っ端だがそういう契約なのだろうか。おっと、もう移動のようだ。


 幾つかのどこで勝って負けて誰が戦死して加入してだのといった他愛のない日記は流し読みをしながら飛ばしていく。


 十二年八月某日 副隊長になった。だからといって仕事は幾つか追加されるものの特に変わらない。先ず新兵の単純な訓練と掟の厳命。そして破った者の処刑。あとはただただ敵陣に突っ込み魔法隊が見えれば無理矢理にでも進行方向を変えながら全てを薙ぎ払う。単純な仕事だ。副隊長になって分かったのは魔法隊へ執着するのは契約でなく魔法による支援が厄介だからだけだという。実際厄介だが奴らを潰せば後は蹂躙するだけ。効率的なのだ。


 十三年一月某日 どうやら一年が過ぎたようだ。あの時いた奴らの殆どが死んでいる。生きている僅かなものは私のように副隊長になって背中を預けるに足る信頼できる戦友となっている。相変わらず記憶は戻らないがもうどうでもいい。


 十三年四月某日 隊が大きくなっていく。新兵もそうだが他所の傭兵隊を取り込みもう一つの勢力として活動するようだ。その結果、魔法隊が新設されるものの主導権はあくまで我らのようだが先陣を切るのは我らだ。何ものも恐れぬ突撃で敵の策ごと断ち切り全てを蹂躙しこの大戦に終止符を打とうという。


 そこまで読んだところで部屋に近づく音がしたので日記を隠した。音の主はファリーシアで親切心と眠たさで食事を持ってきてくれたようだ。パンと少しの肉と野菜が入った塩スープだ。素朴な味だがこの状況では十分だろう。彼女に礼を言うと連戦が続いただろうから休んでおけと言われた。魔界ならいざ知らず人間界で野盗と言われてもどうも緊張感が感じられない。まあだからだろうか彼女はもう寝息をたてている。やはり余り眠りを必要としないような気もするが眠れるなら寝ておこう。野盗が約束を守るとも思えぬしこちらもただ待つ性分の者は私以外いない。それでも来るまで待つくらいなら寝て待とう。


 起きた。眠りは必要ないとはいっても床につき目をつぶると眠れるようだ。死ぬ前はこれほど簡単に眠れず睡眠薬にも随分と世話になったものだがなと思っていると反対のベッドに寝ていたファリーシアはおらず外は少し騒がしい。とはいえ野盗が村を焼いているわけでもないようだ。閉じきった部屋にいるにしても煙臭さや焼ける音に悲鳴も聞こえない。とりあえず主人に何事か聞けばいいかと階下に下りる。


 「ああ、あっと、えっと、お爺さん、そのですね、エルフの女性が、えーとファリーシアさんですか、その方が、あーーーーぁ、止めて、いや、もう止まっているけど」

 随分とうろたえている。その雰囲気と開け放たれた外から漂う血の臭い。それでもう分かった。大方のところ嫌がらせにでも来た野盗の何人か何十人かを彼女が殺したんだろう。私は気にすることはないと思うが主人は野盗の報復が気が気でならない。


 「ん、何ー。あれ、血の臭いだね。ファリーシアかあ」

 あくびをしながらエリル面倒臭そうにが起きてきた。村存亡の危機などお構いなく宿屋のカウンターから勝手にビールを注いで飲む。ファリーシアを頼りにしているというよりも彼女がただの野盗に万が一にも億が一にも遅れをとることはないと私も分かっている。


 「おう、エリル、ビール俺にもくれや」ドゥガンも起きてくる。エリルに注いで貰ったビールを飲み干し。主人に安心するように言う。


 「こんなしけた村で待つのも面倒だ。ファリーシアに山狩りさせて運良く逃げてきた奴らを俺とエリルで仕留めてやるよ」

 呆然とし脱力して膝から崩れ落ちる主人を支えるようにドゥガンは両肩に手を乗せて今日で終わらせてやるよと悪党の顔を一瞬見せすぐ笑顔に戻り焼き討ちにあっても私を指差し魔法使いがいるから大丈夫だと言い聞かしている。そして私に近づき小声で雨降らせられるかと聞いてくる。そういった魔法は無いが水の魔法ウォーターを真上に放てば結果的に雨を降らすことにはなるはずだ。おそらく出来ると答えて彼は疑問に感じず再度主人に向かって気楽に酒でも飲んでろと言って彼を持ち上げ椅子に座らせる。


 丁度ファリーシアも帰ったところなので簡単な作戦も伝えると元からそのつもりでそれを言いに戻ったようだ。何人か逃したところ村から北の方向にある森へ逃げていっている。小さな傷も負わせているから臭いを辿れば追跡は楽勝だと。ドゥガンは村の中でエリルは森の近くから逃げてくる野盗を狩ることになった。私は火矢などで燃やされた時の為に村の中心でお留守番だ。一度練習したいが、まあ大丈夫だろう。


 無言でファリーシアは森に入っていく血の臭いもろくに風呂も入ってない体臭も覚えている。音もなく野盗の住処へ辿り駆ける。ついブラフかと思うほど木に血の手形を見つけるものの苦もなく野盗の集団を見つけて呆れる。罠もなく侵入者をしらせる仕掛けもない。これはフェイクではないかと再度考えるものの集団の中に明らかに野盗とは違った風格を漂わせる者を発見してここで当たりと確信する。おそらく奴が頭目だろう。そこからはわざと木々と草むらを揺らせ堂々と現れる。これは単にエリルやドゥガンにも残してやろうと思ったまでのことだ。


 野盗のうち逃した者がファリーシアを指差し大声でギデガス様と言いながらこいつが仲間を殺した奴だとわめいている。ギデガスと呼ばれたものはたいそう酔っ払っている。ぼさぼさ頭の長髪を掻きむしりながら面倒臭そうに酒瓶を飲み干し後ろに捨てると腰に携えた剣に手をかけて抜くとふらふらと揺れながら構えるが中々さまになっている。間合いを見極めながら一気に突進し身をひねりながら鞘から抜いた剣をファリーシアに浴びせる。それを簡単に避けるが次々と華麗な剣舞は徐々に彼女の間合いを削り遂に剣が命中する。


 「まあ少しは強いと思ったが、こんなものか」

 ファリーシアの頭の先わずか数ミリといったところにギデガスの剣はある。寸止めではない。彼は力を入れて彼女の頭に刃を食い込ませてやろうとしている。その顔は彼女の魔力の壁に当たるまでにたにたと笑っていたが今は脂汗を滴らせながら相手の実力をようやく理解したようだ。それは彼の最後でもあった。一閃、大太刀の一撃で彼の首は体とお別れした。残った野盗は何が起きたか分かっていない。ファリーシアはわざと叫び彼らに気付かせる。散り散りに逃げるもののうち村へ行くものは残しそれ以外の者は瞬殺した。後は残りがいないか軽く確認してギデガスの首をぶら下げながらゆっくりと下りていく。


 野盗は何が起こったか未だに殆ど分かっていない。ただ一つ、自分たちの大将がやられた。あっさりと首を狩り飛ばされた。それだけであとは自暴自棄に村に突撃していく。これからどうなろうと知ったことではないが村は燃やしてやるとそれぞれが心に誓うがその思いは次々と途絶える。エリルの刃は次々と野盗の首を斬り裂く。幾つかの人数で囲んで彼女を仕留めようと意気込む者もいるがそれこそ馬鹿な獲物が飛び込んできたものだ。彼女はファリーシアとがいるから目立たないだけで素早さであれば実のところファリーシアよりも速い。野盗共は何が起こったか分からず首を抑えて悶絶しながら死んでいく。化物がもう一人出たと更に混乱した野盗は狂乱しながら村を目指す。エリルもまた何人かは意図的に残す。


 野盗の生き残りが見たのはドワーフのちびが一人手斧を持って待ち受けていたということ。そしてその手斧を正確無比に一人に叩き込んだがあとは手ぶらなところを見て好機と勘違いして飛び込む。一番に飛び込んだ者は背中に熱く重い感触を感じなから倒れる。投げた手斧がドワーフの手元に戻っている。ドゥガンはあざ笑いながらトドメを入れては手斧を投げては戻していく。幾つかの単純作業を終えるとエリルが下りてきてもういないかなと確認する。その一瞬をついて最後の生き残りが火矢をありったけデタラメに射る。幾つかの住居に当たってからはドゥガンが叫んだ。私の出番のようだ。どうか上手くいきますように。


 「ウォーター!」


 天に向かって手を突き出し魔法を放つ。水の魔法は濁流となって天に注がれ周囲にまき散らされていく。思ったより大きい雨粒だが火を消すには十分だった。生き残りは更に何が起きたかまた分からなくなったところにドゥガンの手斧がめり込み最後を迎える。


 やはり終わってみれば何てことはない戦いだった。エリルもドゥガンも雨にぬれながら宿屋に入りビールを飲みながらファリーシアの帰りを待つ。彼女は生き残りがいないかを確かめながらゆっくりと下りていくが残ってはいないようだ。首をぶら下げて帰ってきた。


 「弱かったけど、大将らしいから、つい持って帰ってきちゃった。これどうしよっか」首をぶらぶらさせながら聞いてくる。主人は口を抑えながらも村の危機が去ったことに素直に安堵している。


 「もし、兵が来たら渡せば、いいと、思います。賞金を払ってくれるかもしれません」

 そうかとファリーシアは主人を気づかって外にある宿の看板に首を髪の毛で結んで他と同じくビールを飲み楽すぎて罠かと思ったとエリルとドゥガン一緒に笑いあっている。少し離れたところで水を飲んでる私に近づき雨を降らせてくれたことに礼を言う。そしてまた悩んでいる。


 「野盗の奴らの身ぐるみ剥いでおけ。近くの街に売れば良い収入になるんじゃねえか」ドゥガンは気を利かせて言っているがそういう悩みでないようだ。


 「ドゥガンさんなら知ってると思ってたんですが、ユーラウス皇国ではこういった討伐は、冒険者でなければ駄目なんです」

 主人はため息をつきながら言う。今回のような緊急避難のようなことでも野盗全部を皆殺しにするような行為は罰せられるかもしれないそうだ。ドゥガンもそれは知らなかったようだがそこまでの問題でないように軽くあしらっている。


 「しかし、あの大将首はおそらく名の知れた者なんじゃろ。その辺で交渉出来んかい」私は一応助け舟を出す。主人はそれならもしかしたらと言うが確信はない。


 それ以降その話はせずに小腹が減ったし、そういえば朝飯食ってねえとドゥガンが言うので主人は調理をしながら気を紛らわしている。宴会とまではいかぬものの楽しく昼もすぎて談笑していき日も落ちようとしたところに馬のいななき声がする。それは主人が当初待ち望んでいた兵、しかも正規兵のようだ。しかもそのうちの二人は装備の豪華さが違う。ただの寂れた村を救う為に来たのであればユーラウス皇国というのはなかなか国民思いのようだ。その中でもっとも偉いのであろう者が宿の看板にぶら下がる首を一瞥し戸を開く。


 「助けの知らせを聞いて参ったところですが、見るところそちら方のお陰のようですね」

 男は美男子でへらへらと軽く笑ってはいるものの華がある。私以外の三人はひと目で華だけでなく実力もあることに気づく。ファリーシアはギデガスと比べて圧倒的に上とみる。挨拶の後ろで残党がいないか探してこいという命令が飛び、その声の主が入ってくる。軽く男に礼をして自己紹介をする。


 「こちらのお方はユーラウス皇国第四位継承者 ユーラウス・ベリアス様です。私は若の付き人を仰せつかっているガインギルと申します」どういう事か皇子のご登場だ。それを聞いた主人は気を失い倒れた。付き人も同様にかなりの使い手のようだ。


 「特に敬称は必要ないよ。気軽にベリアスと呼んでくれて構わない」

 皇子は相変わらずへらへら笑いをやめずにいる。付き人というガインギルをあだ名だろうガイと言って主人を部屋に寝かしてあげるよう命令する。付き人は通り過ぎるさいにこちらを見たがまるで氷のように冷ややかな視線を送る。


 「さて君たちの処遇だが気にすることはない。看板に飾られらたギデガスの首を見れば君たちの実力は分かる。本来であれば逮捕しなくちゃいけないけど皇子特権で後付だけど仮冒険者として登録するよ。後で書状を渡すからそれをどこでもいいからギルドに出せばいいよ」

 そう言うと付き人が戻ってきて書状について頼んでいる。拍子抜けするほどあっさり事が運んでいるが素直に喜んでいいところだろう。ファリーシアは賞金首の金はどこで受け取ればなどと言うがそれも書状に入れておくと。ついでにこちらも名乗ってなかったので簡単に自己紹介をする。もちろん魔界から来たなどと言わずに偶然この村にいて偶然野盗の群れを討伐したという嘘丸出しの文句を堂々とドゥガンは語る。


 しばらくすると書状が出来て渡された。兵たちも戻っていて夜のうちに帰ると言っても誰一人愚痴をこぼすこともない。こちらも軽く挨拶して見送る。


 「これでよかったのですか、若。しかもギデガスの首とはいえゴールドランクにするなど」ガインギルは冒険者ランクや何故奴らを見逃したのか問うがベリアスはおどけながらも真面目な顔になり。


 「彼らは強い。強すぎるほどに、特にエルフの女は僕よりも遥かに強いよ。ダークエルフの子も彼女の影に隠れているがかなりのものだ。ドワーフも同じく。更に不気味なのがその中で一目置かれている印象の爺様だ。彼らを敵に回すのは危険だ。それとランクについてはゴールドランクからは逐一依頼について報告を上げるようになっている」そう強く言いこの問いは終わりとでもいうようにまたへらへらと笑い人差し指を唇につける。ガインギルも分かりましたと短く言い頷き黙って馬を走らせる。


 「それじゃ俺たちは寝て日が上がってからは、折角だから皇国でも見物に行くか」ドゥガンが書状を振りながら提案し全員賛成する。正直な話、人間界に来たいと言ったものの何の目的もないのだから観光もいいものだ。今日も先に私が休みに上がりベッドに寝転がる。日記の続きでも読むかと思ったがやめた。


 何時でも出来ることだ。今はユーラウス皇国とこの世界がどんなものか楽しみだ。

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