02

 僕が、久遠憐という少女に出逢ったのは高校の合格発表のその日。

 桜が舞う学校の敷地で、遠くを見透かすかのように凛々しく立っていた彼女にどうも目を奪われてしまった。

 偶然にもクラスが一緒で、それ以来憐とは友人関係にある。


 そんな彼女は一際クラス内でも、目立っていた。なにしろ顔立ちがいいもんだから、クラスのみんなはこぞって憐に話しかけていた。

 しかし、そんなことも最初だけで気づけば憐に話しかける人は居なくなっていた。

 理由は明白で、話しかけてくるどんな人の声にも憐は決して耳を傾けようとしなかったのだ。

 口を開いて言葉を発するのは授業中くらいなもので、普段から静謐せいひつにクラスのはしの方にいた彼女は、正直なところ少し浮きつつあった。

 ……まぁ、憐のことだからそんな事はどうでもよかったんだと思うけど。


 相変わらず、憐の容姿はとても優雅だった。

 気怠そうな彼女の顔は凛々しく。一輪の花のようで、もはや異常なのではないかというほどに整っていた。

 その気怠そうな表情は髪にも表れていて、少し跳ねた襟足が黒髪のショートカットを一層、際立きわだたせていた。


 でもある日、憐の雰囲気が変わった。まるで別人のように、久遠憐という人物すべてが変わってしまった。


 そう。

 憐が目にケガを負った、あの時から──。

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