第2話・パンツ
入学早々パンツが好きだと公言する野郎に友達ができるのか?
答えはノーである。
女子は僕を見るたびに顔を引きつらせ、男子はそんな女子を気にして関わろうとはしてくれない。
自分から冗談なんだよと笑って弁明できれば男子の友達くらいはできたかもしれないけど、そもそも僕はあまり自分から話しかけるタイプじゃなかった。
話しかけてくれれば色々と答えるんだけど、最初の一歩はいつも受け身だ。
当然の如く、あの日から一週間経った今も僕に話しかけてくれる人はいない。
ただ一人、大橋さんを除いて。
「ねえねえ篠塚君♪ お話しよ?」
可愛いは正義と言わんばかりに男女問わず大人気となった大橋さんはことあるごとにクラスの底辺を這いずる僕にかまってくる。
僕はと言うと休み時間は机に突っ伏していた。
こうやってただ時間が過ぎるのを待っているとセミの気分が分かってくる。
「ねえねえ篠塚くぅーん!」
大橋さんは僕の肩を揺らしてくる。
セミもきっと土の上で工事とかしてると勘弁してくれって思うんだろうなぁ。
正直、クラスの皆がいる前であまり話したくはない。
だけど寝てるふりでやり過ごせるほど大橋さんは甘くなかった。
僕にしか聞こえないようにぼそりと呟く。
「あ。ブラ付けるの忘れてきちゃった……。今日体育あるのにどうしよ……」
なんですと? あの大きな胸をブラが支えなかったらどうなるんだ?
いや、それよりノーブラで体操服って透けて見えちゃうんじゃ……。
僕は左を向くという誘惑に勝てず、それでもじろじろと見るわけにもいかず、肘の辺りに隙間を開けてちらっと盗みしようとした。
すると目の前に大きな瞳が現われる。どうやら先読みされたらしい。
「うわ!」
僕は思わず体を起こした。
何人かのクラスメイトはなんだなんだと僕を見る。
皆に注目された僕は体を硬直させ、またおずおずと席に着いた。
それを見て大橋さんはくすくすと笑う。
そして肘をついていたずらっぽく笑った。
「篠塚君のえっちぃ~」
「ち、ちがうよ」
「ふ~ん。なにが違うの?」
「え? いや、それは……」
あたふたする僕を大橋さんはニヤニヤしながら見つめている。
「忘れるわけないのに~。篠塚君ってブラも好きなんだねぇー。あれ? ブラが好きなら付けてないって言ったら見ないか。じゃあ胸が好きなのかな?」
詳しい分析はやめてもらいたい。
大橋さんは僕の耳元でぼそりと呟いた。
「皆に言っちゃおうかな~」
「そ、それだけは…………」
これ以上僕に変な性癖が加わったら本当に終わる。
大橋さんは「ふ~ん♪」と小悪魔みたいに微笑んだ。
「じゃあ寝てるふりなんてしないでお話してよ。そしたら言わないであげる」
「お、お話って?」
「なんでもいいから~」
大橋さんは人差し指で僕のほっぺをぷにっと押した。
その指は柔らかく、僕は思わず顔をそむけてしまう。
「献立と同じでなんでもいいって言われると困るんだけど……」
「もう~。ああ言えばこう言う。じゃあ好きなものでいいよ。どんなパンツが好きなの?」
「そもそも好きじゃないって!」
「本当に?」
大橋さんは少しトーンを落として、真剣そうに言った。
「……え?」
「本当に好きじゃないの?」
「いや、だから……」
「本当に好きなら、少しくらい見せてあげてもいいかな~って思ってたんだけど」
大橋さんはスカートの裾を摘まんでちょっとだけ持ち上げた。
意識せずともドキドキと胸が高鳴り、視線が集中してしまう。
だけどその集中は大橋さんの吹き出し笑いで消え去った。
「ぷっ。そんなにまじまじ見ないでよ~」
大橋さんはお腹を抱えて笑い出す。
また騙された……。恥ずかしい……。
僕はぷるぷると震えながらも、少しむっとした。
さすがにやられっぱなしじゃ悔しい。
僕は頬杖をつき、目線をずらして、口を尖らし、なるべく素っ気なく告げる。
「べ、べつに……、大橋さんのパンツならもう見たし」
我ながら苦しい言い訳だった。
それでもなんとか一矢報いた僕は恐る恐る大橋さんを見る。
そこにあったのは耳まで真っ赤になって開口して恥ずかしがる綺麗な顔だった。
あまりの照れ加減に僕も思わず赤面してしまう。
大橋さんは涙目で僕を見つめたあと、机に突っ伏した。
「忘れようと思ってたのにぃ…………」
「……ごめん」
どうやら大橋さんもあの一件は気にしてたらしい。
それから授業が終わるまで大橋さんはずっと不機嫌だった。
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