第148話 広田幹事長

「私は先ほども言いましたが、神戸から東京までの移動を実際に体験しました。その体験した人間としていろいろお聞きしたい」

「幹事長!」

中州根が手を挙げた。

「中州根君」

「証人への質問の前に、君が経験した実際の瞬間移動の詳細をもう一度ここでみんなに聞かせてほしい」

「広田君」

「わかりました、議長に提案です。証人との質疑の前にしばらく私と総理に時間をください。私も議員を長らくやっていますので、今総理を含むみなさんが何を考えているかよくわかります。そこを先にクリアしたいです」

「提案を許可します」

「では摩耶さん、楽にしてそこの椅子で少し待っててください」

「はい」

証人台を降りて椅子に掛ける摩耶。

「えー、昨日新幹線で神戸入りした私は、今日の9時に影松高校に証人を迎えに行きました。正直ここまでの私は皆さんと同様に、このシステムに関しては半信半疑でした。その後新幹線での東京入りを提案しましたが、彼女の発案で住吉神社奥宮からそこの日枝神社に瞬間移動しました。さらに瞬間移動する前に一昨日から鹿島、伊勢、出雲、霧島神社参りツアーを終えて帰ってくる一行に会い感想を聞きました」


「ほう・・・ツアーのみなさんはどんな感想だったのかね?」


「すべての老人夫婦が満面の笑顔で、口を揃えて感謝と驚きの言葉を連発していました。その後、我が政党の陳情を受けましたが同神社の鳥居の下で、水晶とウタヒの効果により9時5分には隣の日枝神社に到着しました。移動にかかった時間はわずか1秒です」

「ほう・・・」

議場がため息に包まれた。

「総理、100年前に誰が飛行機に乗って世界中を自由に旅行できる時代を予想できましたか?今まさにこれと同じことが起こっているんです。我々為政者はそのことに目を背けずに、前向きに検討しなければならないと実際に経験した者としては痛切に考えています」

「前向きと言ってもなぁ・・・」

まだ海外のカメラをしきりに気にする中洲根。

「総理とは長い付き合いです。ズバリあなたの頭の中を言い当てましょうか?あなたが今考えていることは3つ。1つはこの便利な移動システムが日本政府でコントロールできるかどうか?2つめは仮にできたとしてアメリカをはじめ諸外国がどう言うか?そして3つめはすべての議員の頭にある疑問ですが、『自分はどちらに属するか?』ですね。違いますか?」

「・・・」頭を掻く中州根。

心の中で手を叩く摩耶。

「結論は今必要ありませんが、その前に提案があります。ここにいる500人近くの議員全員に実際に日枝神社から神戸への瞬間移動を体験してもらいたい。もちろん大人数なので何回かに分けての作業になるが摩耶さんどうだろうか?」

「はい。たしかに大人数ですが、私たちでチームを作れば10日間ほどで全員の移動は可能ですが・・・」

「よくわかりました。この移動方法についての具体的な討論は、全員が体験が終わった10日後にしたいと思います。総理いかがでしょうか?」

「わかった、10日後だな」


「では今からは摩耶さんに質問です。質問というよりはあなたの日本国政府に対する正直な要望を聞かせてほしい」

「わかりました。素人の発言ですがいいですか?」

「もちろん」

椅子から立ち上がり、摩耶がもう一度証人台に立った。

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