第143話 休憩タイム

摩耶が広田と楢崎に付き添われて議場の隣にある控室に戻ってきた。

「お疲れ様、ふーちゃん。テレビで見てたけどよく頑張ったね」

「ジョージおじさん、頑張ったけど場の雰囲気に負けてしまって、最後は総理に対して自信持って言えなかったわ」

「はっはっは、とはいえ前半はなかなか見応えがあったぞ。若い時の苦労は買ってでもせよというからな」

「あ、さきほど助け舟を出してくださった楢崎さんですね?」

吉原は尋ねる。

「あ、初めまして楢崎です。名前から既にバレていると思いますが楢崎皐月の遠縁にあたります。みなさんいつも皐月の説を信じて実践していただきありがとうございます」

「楢崎さん、こちらこそ負けそうな時に助け舟ありがとうございました。慣れない質疑でまだ心臓がドキドキしてます」

胸を押さえて摩耶がお礼を言った。

「ごめんね摩耶さん、山崎は同じ選挙区だからお手柔らかにするよう根回ししてたんですけど総理だけは誤算だったわ」

「総理は今、同盟国アメリカが日本の瞬間移動システムの扱いに対してどう思っているかだけが気がかりなんだ。多分、今もトランポリン大統領と電話で話をしているはずだ」

総理をよく知る広田が言った。


「要するにこんな規格外の科学技術を持っていながら『アメリカさんには敵意はありませんよ』と言いたいだけなのね」

楢崎が答える。

「すいません、幹事長の私がもっと根回ししとくべきでした・・・」

頭を掻く広田。


「はっはっは、しかし総理も器がこまいのう。もう時代はアメリカやらロシアやら言うてる場合じゃなかろうに。時代錯誤もいいところじゃ」

「ところでふーちゃん、本当に疲れているようだけど、午後からの会議は大丈夫かな?」

「ジョージおじさん、身体の疲れは全然平気なんだけど精神的にかなりきついです。でもメグちゃんに、ここは何としても乗り越えるように言われてますから倒れるまで頑張ります」



「はっはっは、その意気込みじゃ。何かあったらワシらがいるから頑張るんじゃ」

「わかりました!頑張ります」

「午後は文科省としての私の番なので安心して。ところで回答中にチラチラ見ていたこの大学ノートは何?」

楢崎が摩耶のかたわらにあるノートを指さした。

「これは、今日のみなさんからの質問を想定した模範回答です。つまりカンニングペーパーです」

「さすがは進学校の女子高生ね、ちょっと見てもいい?」

「ええ、どうぞ」

渡された大学ノートのページをめくり、じっくり読みこむ楢崎。

「ふーん、よくできてるわね。後半はまさにミスマルノタマ学校の事を聞く予定だったの。でも安心してね、そのままの回答でいいから。実は私はこの学校開設に大賛成だからね。多分あの世の楢崎も大喜びするはず」

「あ、ありがとうございます」

「それと最後に1人の高校生として、今の日本政府に対する意見を聞く時間を設けるから忌憚の無い意見を言ってね」

「わかりました、それに関してはカンニングペーパーを作ってませんが、その場で思ったことを言わせていただきます」

「それはいい。幹事長の私からも若者を代表した政府への意見を聞きたいとつねづね思っていたところだ。その質疑は私がやろう」

「わかりました、なんかみなさんのお陰で元気が出てきました。頑張ります」

「では午後の議場でお会いしましょう」

笑いながら広田と楢崎が控え室から出て行った。


「はっはっは、まさに掃き溜めの中の鶴じゃのう。今の国会議員もまんざら捨てたもんじゃあないわい」

「いずれにせよふーちゃん、午後はやりやすくなりそうだから頑張ってね」

「はい!」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る