第139話 野原証券 神戸支店


「日経平均さらに大幅な下げ」

「よーし、もっと下がれ!」

「きたー!ストップ安ー!」

「また今日も大儲けだ!」

「ああ、まるで毎日が夢のようだ!」

真っ赤になった全面安を示す株価ボードを見ながら、野原証券・神戸支店の全証券マンたちは歓喜の声を発する。

彼らにとっては、今までの証券マン人生で味わったことのないまさにゴールデンタイムである。


「新谷支店長、ご覧ください。本社からのデータが送られてきました」

支店長席から株価を睨んでいた新谷が橋本課長からデータを受け取り、棒グラフに目をやる。

「なんと野原証券始まって以来の最高益か・・・」

「はい、支店長の慧眼のおかげでなんと今期は過去100年分の利益と同額が出たそうです。全社員に臨時ボーナスとして1人につき5000万円ずつ出るそうです。あの時に全支店あげての売り注文と、加えてカラ売りの判断が大正解でした。おめでとうございます」

「作戦成功だな。ところで他の証券会社の状況は?」

「最悪です。顧客に的確な指示を出せなかったライバル会社たちは、毎日がクレームの対処ですべて壊滅状態です」

「つまり我が社の独り勝ちか・・・」

「はい。それと支店長、本社から辞令が来ています。今回の功績を称えて、来期から副社長に任命するとあります。」

「副社長か・・・本社に栄転だな」

「おめでとうございます、野原証券始まって以来の4階級特進です!」

「それもいいが、うちのグループには、確か野原不動産があったな」

「はい、首都圏を中心としたデベロッパーですが・・・」

「副社長のイスの代わりに野原不動産の社長を所望したいと本社に伝えてはくれないか?」

「え、子会社の社長にですか?もったいない」

「それがもったいなくないんだ。」

「なぜですか?凡人の私には全く理解できません。しかし今回の下げ相場をピタリと当てた支店長のおっしゃることですから、何か作戦があるんですか?」

「そうだ、今から日本中の土地を買いあさる。幸い購入資金はこの大暴落で潤沢にできたからな」

「土地の買い占めですか?」

「そうだ。日本中の神社の周りの土地をすべて買い漁る。将来価格は10倍、いや100倍にはなるからな」

「そうなんですか?私には想像もつきませんが・・・」

「あ、それと神戸ドリーム観光株式会社の上場準備はできているな?」

「はい、来月初めには東京証券取引所に上場できる予定です。」

「そちらもよろしく頼むよ」

「しかしすごい会社ですね。これだけ株価が暴落しているというのに上場前から『株を買いたい』という顧客が殺到しています」

「当たり前だ。コストゼロで旅行が組めるようになるのだから。我が社が証券業界で独り勝ちのようにあの会社が旅行業界の独り勝ちになることは間違いない」

「何から何までお見通しなんですね。恐れ入りました。あの・・・もう一つ聞いていいでしょうか?」

「何だ?」

「この大暴落の中、唯一といっていいくらいに上がってる業界がありますよね」

「鉱山関係か?」

「そうです三月鉱山、住吉銅山、大日本鉱山などです・・・」

「前にも言ったが、理由は水晶だよ」

「水晶・・・ですか?」

「これらの会社は鉱物の採掘を専門にやっている会社だ。これからは水晶が今のゴールドよりも価値が上がる時代が来るから、私が全支店に買い指示を出したんだ。それと本社には金や銀の相場のような水晶の取引所を開設するように指示を出したところだ」

「なるほど、これはいよいよ野原証券総取りゲームですね。私は入社時に日の丸証券も内定をもらっていたんですが、野原証券を選んでよかったです!感謝しかありません。」

「私もうちのバカ息子に少しは感謝しないとな・・・」



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