第138話 摩耶入場
中居の機転で静まり返った中で、臨時国会が開催された。
今回の国会は日経平均株価を90パーセント下げた張本人が来ることで、当初から日本国内はもとより全世界が注目する会議となった。
ニューヨークを初めとしてロンドン、香港など世界中の株式市場が日経平均株価に連動して歴史上最悪の大暴落をしていたのである。
さらに株価だけでなく、世界中の原油や天然ガス価格も暴落していた。
このことを受けた日本国政府は異例の処置として、BBCやCNNなど各国のマスコミに対しても会議の内容を公開とした。
会議場内に海外メディアの腕章をつけたカメラマンが多数見られるのがその証左である。
「えーそれでは、ただ今より臨時国会を開催します。なお本日の証人は現役の高校生のため専門用語を省いた分かりやすい質問を要請します」
急に声が出るようになった議長の開会宣言のあと、
「それでは摩耶富士子さん、証人席へどうぞ」
証人喚問として学生服姿の摩耶が呼ばれて、一礼してゆっくりと席に着いた。
控え室の2人の目から見ても非常に落ち着いている。
武骨なスーツ姿のおっさんたちに囲まれた中央席で、ちょこんと制服姿で座る摩耶はそこだけが異空間のようであった。
議場内のみならず、日本国はおろか世界中の耳目が集中した。
「あ、あー!なんとか声が出るようになった」
「あ、オレもだ」
議員たちがそれぞれの喉をさする。
「あの小娘が例の能力を使えるらしいぞ」
「今回の株式と原油相場の下落の張本人だ」
「思ったより普通の高校生だな」
普段は議会中寝ている、すべての議員がその好奇の眼差しを摩耶に向けたヒソヒソ声が聞こえる。
議場のそれらの声を両手で制して議長が発言した。
「それでは慣例に基づき、証人は自己紹介をお願いしたい」
影松高校 部室
「いよいよなんだナ」
「アホなオッさんたちをいてまえ!や」
「しっ!アンタたち黙って聞いてあげて」
部室内の液晶テレビを食い入るように見つめるメグや部員たち。
「はい、私は兵庫県立影松高校1年の摩耶富士子です。どのような質問にもお答えしますので今日はよろしくお願いします」
ぴょこんとお辞儀をして、自己紹介が終わり摩耶が席に着く前にサッと手が挙がった。
「山崎運輸大臣」
議長が運輸大臣に質問を促す。
「摩耶さん、運輸大臣の山崎です。端的に聞くが貴女は先週来の日経平均株価の下げをご存じか?」
「摩耶証人」
「はい、ニュースで見ましたが、この10日間で90パーセントの暴落と聞いています」
「高校生のキミには難しい質問かも知れないが、そもそもこの下げが意味することを理解しているのか?」
「はい。社会科の先生から聞いたところによると日経平均が始まって以来の下げとか。それに伴い多数の企業が倒産寸前に追い込まれているとか」
「ドン!」
運輸大臣が質問席の机を拳で叩いた。
「そこまで理解しているなら、まやかしの迷いごとで日本経済を壊滅に追い込んだ責任について、貴女はどう思っているんだ?」
「まだ迷いごととか言っているんだナ」
「まやかしやて。ほんま、アホ丸出しやなー」
「しー!」
広田幹事長が手を挙げた。
「広田幹事長」
「運輸大臣、私はつい先ほどその移送方法で神戸からそこの日枝神社まで実際に移動してきた。まやかしや迷い事の言葉は撤回してもらいたい」
「わかりました。幹事長がおっしゃるので100歩譲ってその現実は認めましょう。その上での責任をお聞かせ願いたい」
「責任?ですか?」
小首を傾げて復唱する摩耶。
「そうだ、責任だ」
「私はただ、新しい時代の到来とミスマルノタマを出す方法を説いているだけですが」
「そうだ、そのナントカのタマという出鱈目のせいで日本は、いや世界は今や大変な事になっている」
「次はなんと出鱈目なんだナ」
「しかもナントカのタマやて!あかん、最強のアホやー」
「しー!」
「株価の下落は、ミスマルノタマとそれに伴う瞬間移動方法に対する世界の正当な評価だと思いますが」
「正当な評価?」
「はい、人類の総意が不必要に上がっていた株価を下げたのだと思います。学校で習ったんですが株の世界は『ゼロサムゲーム』だと聞きました。今回の暴落で逆に大儲けをした人もいるんではないですか?」
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