第135話 東京行き

「おーい。幹事長!みなさんの陳情を聞くのはもうそのへんでよかろう。全部聞いてたらきりがない。そろ東京に行かんとな」

「はい、助かりました。中居さん」

ハンカチで汗を拭いながら助け舟に感謝する広田。

「こちら、摩耶さんのお知り合いのジャーナリストの吉原さんじゃ。今から一緒に東京に行くことになった」

「そうですか、よろしくお願いします。広田です」

「お顔は何度も拝見しています。政治関係は苦手なんですけど、こちらこそよろしくお願いします」

もう一度深々と礼をして名刺を渡す吉原。


階段を上がりながら広田は吉原に話しかける。

「吉原編集長、先程は観光客がいっぱいいましたが、どのようなツアーなんですか?」

「あ、吉原で結構です。実は私も同行したんですけども、おとといは鹿島神宮、伊勢神宮そして昨日は出雲大社、霧島神社と参拝して、そしてたった今神戸に戻ってきました。まるで夢のような3日間でした」

「なんと茨城県、三重県、島根県、鹿児島県を2日間で・・・そんな夢のような観光ができるのか・・・」

「そうなんです、広田幹事長。実際に彼らの満足ぶりを見たでしょ?」

「確かに喜びでいっぱいの観光客の姿を見た。みなさん満足げだった」

「はっはっは、政治には不満足じゃったがな」

「それは言わないでください」

ばつが悪そうに広田が頭を掻く。

「広田さんや、いずれみんながそういう旅をするような時代が来る。移動費も時間もかからないし、何よりクリーンエネルギーじゃから地球に優しい」

「実際に見るまでは信用できなかった・・・」

「さぁ今度はあんたが経験する番じゃよ」

石段を登り切った4人の目の前に住吉神社の鳥居が近づいてきた。


「あのぉ・・・広田幹事長・・・」

「あ、摩耶さん今後は広田でいいよ。何かな?」

「では広田さん、私東京には初めて行くのでよくわからないんですけど、国会議事堂の近くの神社ってどこになるんですか?」

「国会議事堂の近くか?確か議員会館の裏に日枝神社があるな・・・」

「日枝神社ね。分かりました」

摩耶はおもむろに境内に入っていき、賽銭箱の上の何もない空間をじっと見つめていた。

「武蔵国・・・日枝神社・・・と。これね!あったわ」

「中居さん、彼女は一体何をしてるんですか?」

「あれはあんたには見えんじゃろうが、日枝神社に行くための水晶を探しとるんじゃ。わしにはよう見える」

「私には何も見えないですが・・・」

「実は私も見えません。」

吉原が恐縮したように言った。

「はっはっは、修行が足らんのう」

水晶を片手に持った摩耶は、カバンの中から真っ赤な銅鐸を恥ずかしそうに取り出した。

「今度はなんですか?」

派手な銅鐸を見て広田が尋ねる。

「いや、さすがのわしもよくわからん。形は銅鐸のようじゃが、こりゃまたえらいド派手じゃのう」

「そうなの。昨日メグちゃんにもらった銅鐸なの。長距離の瞬間移動を頻繁にやると水晶酔いが発生するのでよ。この銅鐸の中に水晶を吊り下げると緩和されるのですって。私も今日初めて使うのよ」

「なるほど、銅鐸が水晶酔いに効くとは聞いたことがあるがのぉ。そのミッキーマウスの絵柄はなんじゃね?」

「もう!中居のおじさん、恥ずかしいからそれは言わないで。これはメグちゃんの趣味なの!」

「はっはっは、卯原殿がのう・・・粋な計らいじゃわい」」

「そんなことより早く日枝神社に行きますよ、準備はいい広田さん?」

「準備って?」

「心の準備です。初めてだから私の肩につかまってね。そうそう、そのままゆっくり前に歩いてね」

水晶をセットした赤い銅鐸を片手に、摩耶はウタヒを唱えて鳥居をくぐった。


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