第31話 4時間目 日本史 課外授業
日本史教師の中居先生が入ってきた。
「起立!礼!着席!」
「えー、今日は日本古代史のロマンとも言える古墳について勉強する。まず、日本の古墳には以下の3つの種類がある」
そう言って中居は黒板に向かった。
1 円墳
2 方墳
3 前方後円墳
「この3つだ」とチョークでそれぞれの形を書いていく。
円墳と方墳は九州に多く、前方後円墳は近畿に多い。わが校の近くにも処女塚と東求女塚、西求女塚という3つが3世紀前半にできたとされる古墳として有名だ」
「私の墓ね」メグがつぶやく。
「今日は前回も言ったとおり、まずは一番わが校から近い処女塚に見学に行くからすぐに準備をしろ」
中居のその声に反応した50名の生徒が弁当と筆記用具を持って、ゾロゾロと西門から出て行く。中居の日本史の授業は今日のようにフィールドワークが多いので評判である。
「卯原さん、昨日の放課後は大活躍だったな」中居が前を歩くメグに近づく
「あ、先生。昨日は先輩たち皆さん勉強になったかしら?」
「いや渡辺も大驚きだったぞ。なぞが全て解けたと」
「お役に立てて嬉しいわ」
影松高校からすぐ西隣を流れる石屋川を渡って10分ほど歩くと大きな交差点の南に前方後円墳が見えてきた。
古墳の大きさは南北に70mほどあり、柵で囲われてきれいに整備されている。
「史跡 処女塚」と書いた看板がある
「さあみんな、ここが処女塚古墳だ。この上の公園に上がってみよう、そこでこの古墳について説明する」中居の後から生徒たちが続いて階段を登ってくる。
階段を上ると小さな公園があった。
「いいか、この地方に1700年前に卯原処女(うはら おとめ)というとてもきれいな女性がいた。ある日、和泉壮大(いずみ おとこ)と卯原壮大(うはらおとこ)という文武両道の二人の男性に求婚されたんだ」
「まるでお前たち三人みたいだな」
「本当ね、名前までそっくり」
クラスメートがメグと秀と星を笑って見る。
「いやそっくりやおまへんねん、超本人でんがな」
「またー秀君!」
「神戸に伝わるこの有名な話の続きを言えるものはいるか?」中居が見回して質問する。
桐山が手を上げた
「中学で習った範囲だけど」と断った後全員の前に出てきて説明をはじめる。
「頭脳明晰、眉目秀麗かつ文武両道の2人に求婚された美人の処女はどちらを選ぶか困った。で結局、両親が名案をだしたんだ。『生田川で水鳥を先に射抜いたものを娘の夫とする』と。それを聞いた2人はその決闘を承諾した」
「そういえばそんな話あったなー」
「おばあちゃんから聞いたわ、その話」
クラスメートの感想を聞きながら桐山が続ける。
「そこで試合当日、大勢の観客が集まる中、二人は弓を持って生田川の河畔に立って開始の合図を待った。『はじめ!』という合図の元に2人は同時に弓を放ったのだがなんと一羽の鳥に2本の矢がささっていたんだ」
「そう、たしかそれで今回も夫選びに失敗したことを知り失望した処女が入水したのよね」
「そうなんだ、しかも失意で入水した処女のあとを追って2人の若者も入水したんだ。そして3人の若者の死を悲しんだ村人たちがこの古墳を作ったんだ。以上!」得意そうに説明を終える桐山。
「よーし、さすが桐山よく知ってたな。そしてみんなが今立っているこの古墳が処女の墓、そしてこの墓を挟むようにして東西に2つの古墳がある」
「ぼくの墓なんだナ」
「ワイの墓や」
「真ん中の処女の墓のほうに頭を向けた形の前方後円墳が2つ建てられた。しかも死んでもなおけんかをしないように同じ距離を置いて作られたのだ。これが神戸の町に伝わる古代の悲しいラブストーリーなんだ。しびれるだろう?」
「その処女は私のことよ、先生!今から補足説明するわね」
いきなりメグが手を上げた。
「よし、卯原さん。捕捉説明よろしく頼む。なんでもここは彼女の墓だそうだ。早速その本人からの説明を聞こうじゃあないか。じゃあいつもの『ナリキリ論』でみんなに説明してやってくれ!」
公園の階段の上に上がってメグが全員を見渡して説明する。
「みなさん、今日はようこそ私のお墓へ!そして長い期間大事にしてくれてありがとう!」
ペコリとあたまを下げるメグ。
「いいぞー!メグ!」
「また面白い展開になってきたな」
クラスメートから拍手が起こる。
「ここは私が1700年前、3世紀のはじめに来たときのお墓です!」
「来たって?」
「そう、さっき地学の授業で言ってた月から私は使命を帯びてやって来たの」
「使命?」
「そうよ、あのときは私は当時の人々に養蚕技術とはたおりを教えに来たの」
「養蚕?」
「はたおり?」
「そうよ、まだ当時は綿の衣類しかなかった時代なの。そこで絹の作り方とはたおりを教えたのよ。ちょっとあんたたちも上がってきなさい。彼らもまた当時に別の使命を帯びてたのよ」2人を階段の上に誘うメグ。
「ぼくは水がきれいなこの地域に清酒の作り方を教えに来たんだナ」
「ワイは石の切り出し方と加工を教えたんや、感謝してや」
「とにかくわたしたち3人はおのおのおの使命を帯びて当時の人々に技術を教え終わってそろそろ帰らなければならなかったの」
「みんなと仲良くやっていたんだけど去り方が難しかったんだナ」
「せや、いきなり『ホナ、サイナラ』ちゅうわけにもいかへんよって」
「だから3人でひと芝居を打ったのよ」
「だから処女は生田川に身を投げて、そのあと2人も処女を追って身を投げたわけか・・・」中居が補足する。
「そうなの、ちょっとくさい演技だったかもね。この2人は芝居が下手だから・・・」
「話はよくわかった、要するに3つの古墳は君たちの墓というわけだな。しびれるね、まったく!ところで質問だが、この前方後円墳の型の意味を教えてくれないか」中居が聞いた。
「簡単なんだナ。これはわれわれカタカムナ人のシンボルマークなんだナ」
「シンボルマーク?」
「せや、流星をかたどったマークや」
「流星とは?」
「私たちの月を移動して地球まで来たときの姿を模したのよ」
「丸が月、三角が尻尾なんだナ」
「そうか前方後円墳の意味は流星の形だったのか・・・これは古代史の長年の謎だったんだ」
「そうなんだナ、火星の表面にも記念にひとつ同じ形のモニュメントをつくったことがあるんだナ」
「最近、NASAはんが見つけよったやろ?」
「あ、あの写真か。たしかに火星表面のNASAの撮った写真に前方後円形の物体が映っていたな」
「あなたたちってやっぱり最高ね!面白かったわ!」摩耶が話かけてきた。
「あなたたち絶対、吉本に就職決定ね!ネタの打ち合わせなんかばっちりね!」茶畑が笑いながら言う。
「星君、清酒作りって本当に教えたの?」小動物のような坂本が小さな声で尋ねる。
「そうなんだナ。濁り酒に灰を入れる活性炭効果を教えたんだナ。だから今でもこの辺りは日本酒の名産地なんだナ」
「ワイのおかげで御影石の名産地にもなってまんねんで」
メグを含む3人を取り巻き、生徒たちが集まってきて質問責めが始まった。
「よーし、質問はそのくらいにしてそろそろ弁当の時間にしよう。食べ終わったら各自学校まで帰ること!くれぐれも5時間目におくれないようにな」
中居のこの号令のあと生徒たちはグループごとに分かれて弁当を開き始めた。
「横、座ってもいいかな?」
中居が弁当箱を開けた。
奥さんが作ったのであろう可愛らしい弁当が現れた。
「どうぞどうぞ!」
「卯原さん、さっきの話は本当か?ひと芝居打つたって」
「もちろんよ当の本人が言ってるんだから!」
「せや、ワイらは当時は弓の名人やったんや」
「あとは蹴鞠と剣術が得意なんだナ」
「しかし教えを伝授したあとの去り方が難しいとはな・・・なんか同情するな」
「いやーほんま、やる事やってからそっと去るのが味噌なんやけどこれがまた難儀しまっせ。特に坂本竜馬はんのときが一番難しかったわ」
「ぼくはニコラ・テスラのときなんだナ」
「私はかぐや姫のときよ」
「何言うてまんねん。あの時はあんさんは全部ばらしてしもうたがな」
「みんなに『私は月に帰ります』って言ったんだナ」
「あれは・・・エロ公家爺いたちが5人も来て迫ってきたから・・・」
「ほんでできもせん、無理難題押し付けよったな」
「竜のウロコとか人魚の涙なんだナ」
「あれであいつら降参すると思ったけど、まだしつこく言い寄るから頭に来たのよ」
「それで公言どおり月に帰っていったと・・・あかんがな!」
「おまけに公家や宮廷内にたくさんの敵をつくったんだナ」
「まあまあ、それより今日は例の約束のすごいものを見せてくれるんだろ?」
中居が口喧嘩をする3人を制しながら尋ねる。
「もちろんや、先生!準備は万端や!」
「あんたたちテスト・ジャンプはちゃんとやった?」
「ああ、完璧や!心配せんでええ!」
「渦森山まで行ってちゃんと戻ってきたんだナ」
「本当はゴジラ先輩や他の先輩たちにも見せたいのですが、とりあえず今日は摩耶ちゃんと先生だけを移送します」
「移送か・・・楽しみだな!」
「驚かないでくださいね」
「わかった、では放課後だな」
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