第21話 ゴジラ降臨

放課後


摩耶、メグ、星、秀の4人は新館の三階までの階段を上っていた。


「見たわよ、あなたたち2人ともとてもサッカー上手ね、以前やってたの?」

摩耶が2人に尋ねる。


「平安時代に少しやってたんだナ」


「あんなもん、蹴鞠の難しさに比べたら何でもおまへん」


「そうなんだナ。蹴鞠は硬くて小さいからコントロールが難しい上に木靴を、履いて蹴るから至難の技なんだナ」


「あはは、私は全部信じるわよ」

摩耶が笑って言った。


超自然科学研究室と書いたドアの前にやってきた4人。

昨日より中が騒がしい。


「こんにちはー」

明るく挨拶するメグ。


「まいどー」

元気よくドアを開けてはいる4人組。


昨日は西宮市に都市伝説の「牛女」を見に行って不在だった先輩たちが4人パソコンの前に屯ろしていた。


どうやら昨日デジカメで撮影した写真の中に奇妙なモノが映っているらしく、モニターを前に意見を言いあっている最中であった。


「あの・・・先輩たち。私たち昨日入部した新入部員4名です。よろしくお願いします!」

と代表して摩耶がペコリと頭を下げて挨拶した。


パソコンに向かって操作していた体格のいい生徒がマウスを置き立ち上がってこちらに歩いて来た。


大柄で、でかい口に、ギョロ目でアバタだらけのその顔は、誰がどう見ても「ゴジラ」である。


まるで尻尾のないゴジラが、学生服を着てるだけである。


しかも歩き方まで大股でのっしのっしと歩く。


「ダララン、ダララン♫」

重低音のゴジラのテーマ曲が良く似合う。


「やあ、ようこそ超自然科学研究部へ!歓迎するよ。話は中居先生から聞いている。非常に面白い新入部員だと我々も期待していたところだ」


「私は摩耶といいます」


「私はメグでーす」


「ワイは和泉いいま」


「僕は保倉なんだナ」


「よーし、全員作業中止!三年、二年生と順番に自己紹介な。まず俺は部長の渡辺な。なぜか理由はわからないが、みんなからはゴジラと呼ばれている!将来の夢は『信州大学農学部に行き日本一うまい米を作ること』以上」


パソコンから離れて先輩たち全員が立ち上がって自己紹介を始めた。


「私は副部長の3年生、堀です。4名しかいなかった部員があなたたちが来てくれていきなり倍になって嬉しいわ!」


「オレはヒラ部員1号の2年生、新谷な」


「私は同じくヒラ部員2号の2年生、播磨です」


各自の自己紹介が終わりかけたころに、ドアが開いて中居先生が入ってきた。


「やあ、みんな揃ってるな。自己紹介の最中か。この摩耶さんはいわゆる見える体質らしい。そしてこの3人組も面白いぞ!何でも自称カタカムナ人らしい」

中居が4人を簡単に紹介する。


「まさかー」


「カタカムナ人?発想が面白いなー」


「あ、それ俺も使わしてもらお」


「俺もいただき!」


反応はさまざまであったが、概ね部室内は新入部員を歓迎ムードである。


「さあ、まずはみんな昨日行った『牛女』の報告からだな。実際に行って見てどうだった?」


「はい、デジカメで牛女が目撃されたという寺の近くで撮影した写真に奇妙なモノが映ってました」


ゴジラに似た渡辺部長がパソコンを指差して答える。


「ね、この岩が人の顔に見えませんか?」


「あー、そう言えば顔に見えるねー」

中居がパソコンを覗きこむ。


「でしょう?」


「シユミラクラ現象ね。はっきり言ってこの写真からは霊気は感じないわ」


摩耶が中居の背後からパソコンを見て答える。


「そうか・・・3つの点があれば人間は本能として顔として認識しようとするあれか」

渡辺部長が説明する。


「そうです。人間はいわく付きの岩や木などを顔に見たいんです」

摩耶が説明する。

俯いた顔はメーテルに似ている。


「特にこの地は戦国時代に武将・荒木村重の娘が信長に殺されたいわく付きの場所だからな。みんながそういう先入観で見てしまう」

中居が補足して言った。


「おそらく牛女伝説は件(くだん)ね」

メグが言った。


「件というのは顔が女で体が牛、予言ができて嘘をつかないという妖怪だな。だから昔から証文の最後に約束を守る言葉として『よって件の如し』と記されるくらいの律儀な妖怪だ」

中居がメグの言葉を捕捉する。


「かつて私たちが江戸時代に、この辺りで行った遺伝子操作の実験で逃げた被験体ね」


「あんまり騒ぎが大きくなつたから僕が30年前に引き上げたんだナ」


「せや、しやーから今はおらへんからなんぼ探しても見つからへん」


「お寺に書いていた『牛女は引っ越しました』の張り紙は本当だったのね」


「あ、確かにそう書いてあったな」


「じゃあ、どこに引っ越したの?」


「おつきはんや」


「月?」


「せや、今は月におる」


「「「まさかー」」」


「連れて帰った本人がそう言うとんのやさかいしやーないやんか」


「そうなんだナ」


「な、君たち先輩諸君!発想が面白いだろ?この新入部員たちは!しびれるね全く!」

中居が笑いながら三人の肩を叩いた。








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