第194話 NTT株登場 2
NTTが「バブルの象徴」と言われる所以はその恩恵を受けた人の数である。
先述の「シンデレラ・ガール」は確かにバブルを象徴する現象であったがほんの一握りの人達であった。それに対してNTT株の個人株主数はバブル末期に160万人を超えた。
つまり160万人の人が何の苦労もしなくても200万円と言うボーナスがもらえて「ミニ・シンデレラガール」となったわけである。
当然そのあぶく銭はいろんな経済波及効果を生んだ。
例えば当時出たばっかりの「トヨタカリーナED」と言うデザインが斬新な車は、ちょうどこの金額に似たような価格だったために飛ぶように売れたと言う。
また「海外旅行ブーム」や「グルメブーム」というのが流行ったもこの頃だったし、見るだけで手が出なかったブランド品などが流行になったのもこの辺からだった。
すなわちNTT株と言うものは「今まで株とは一切無縁だった人間」に初めて株を買わせてなおかつ短期間で3倍になったと言うことで個人投資家の裾野拡大に一役買ったことは間違いない。
証券会社っていうのは銀行に比べて比較的敷居が高かった金融機関だったのであるが、働いていた俺から見てもこのNTT株の上場以降は「買物かごを下げたおばちゃん」が証券会社に訪れて気軽に株を買うようになったと言う印象である。
その後のNTT株の推移
4月に318万円の最高値をつけた後、株価は一旦下がり270-290万円の間をウロウロするいわゆる「レンジ相場」となった。
たまたま俺は10月に結婚式があったもので「結婚準備金」を確保するために結果として280万円で売却した。
その際、売り注文を出すときに支店長から怒られた。
「今から1000万円になろうとする株をなんで途中下車をするんだ!お前はバカか!」と。
朝の営業会議でも「このNTT株狂乱の時代に3株売ろうとしている馬鹿がいる」とまで言われた。
馬鹿はお前だろうが!
この頃、電車の中吊りで「NTT株1000万円になるか?」とか「天井知らずのNTT株」などと景気の良い言葉が満載の週刊誌の広告がぶら下がっていた。
その広告を見るにつけ、確かに「結婚式に必要だからと言って売った事」は惜しいことしたかもしれないなと思ったものである。
しかし結果はご覧の通り。
それ以降318万円の高値をつける事はなく翌年10月19日に「ブラックマンデー」を受けて220万円まで大暴落。
第2回目の公募を255万円で買った方はこれによりほとんど即死。
柳の下に2匹目のどじょうはいなかった。
さらに翌年、3回目の190万円での公募と続いたがNTT株が第1回目のようなフィーバーになる事はなかった。
その後NTT株は「バブルの象徴」と言うよりも「株は欲をかかないで倍になったら利益を確保するべき」と言う教訓株となったのである。
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