第192話 シンデレラ・ガール

「シンデレラ・ガール」この言葉をご存じだろうか?

 バブル時代には非常に流行った言葉である。

 意味は童話のシンデレラの物語のように一夜にしてお姫様になると言うサクセスストーリーである。


 今の表現を借りると一夜で「億り人」になると言う現象だ。


 バブル時代には本当にこのシンデレラ・ガールがいたる所で発生した。


 それを今から書いていこうと思う。

 は1988年から1990年のいわゆるバブルの時代絶頂期の話である。


 当時は全体的に株価が高いと言う事での「新規上場ブーム」というのがあった。


 全体の株価が高い中で上場すると公開初値も高くなると言う論理が上場を考えている企業の背中を押した。


 また前述したS工業のように技術を持って、良い営業成績を維持している会社で、なおかつ上場してない会社に証券会社がどんどん上場を推奨した時代でもあった。


 俺の顧客に1人のご婦人がいた。

 年は50才前だったと思うが、彼女は大阪にある会社の立ち上げ時から事務職で働いていたらしい。


 この会社の創業は1972年であった。

「日本はベンチャー不毛の地」と言う従来の概念をひっくり返した会社で有名である。


 彼女は毎月の給料の中から持ち株制度で小額ではあるが50株ずつ同社の株を買っていた。額面が50円だから、まあ毎月2500円のささやかな貯金だと思ったらしい。


「塵も積もれば山となる」という言葉があるように20年以上も真面目に勤務していて10,000株近くの株が溜まっていたのである。

 彼女にとっては「50万円くらいには貯まったかな?」という感覚だ。


 1989年12月25日、同社は東京証券取引所に上場した。そして翌年の1月に株価が8340円をつけて株価ナンバーワンの任天堂を抜いて日本一高い株価の会社になったことは有名な話だ。


 50円の株が8340円になると言う事は約160倍になると言うことである。


 さらにこのご婦人の株は上場前に倍額の増資をしていたから株数は2倍になっていた。


 彼女は俺に聞いてきた

「今うちの会社の株が高くなってると聞いてますけれども娘の進学費用の足しにするために売ろうかと思っています。一体いくらになってますか?」


 俺

「現在、何株お持ちになっているんですか?」


 御婦人

「はい、株式分割というのがあったそうで約20,000株近いです」


 俺

「驚かないでくださいね。今日の価格で売却したら1億6000万近いです」


 御婦人

「えー!1億6000万円ですか!本当ですか?」」

彼女は目をまん丸にしていた。


 俺

「はい、娘さんの進学資金は多分心配しなくても大丈夫だと思いますよ」


 このように当時は新規上場した途端に100倍以上になる銘柄が非常に多かったので全国でシンデレラ・ガールが出現した事はご理解していただけたと思う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る