第191話 自社株評価 7

 俺はS工業の社長の考え方を理解して次に大塚社長に電話をした。


 俺

「社長、お待たせしました。やっと自社株評価が出ました」


 大塚

「そうか!いくらで売れそうかな?」


 俺

「社長、たしかご希望売却金額は1000万円以上でしたよね」


 大塚

「そうだ。それぐらいの評価が出たか?」


 俺

「それ以上が出ました。社長、もしもですよご希望の5倍の金額で売れたら納得しますか」


 俺

「当たり前だ。もとから1000万円でいいって言ってんるだからそれが5000万になれば御の字だ!」


 俺

「わかりました。ではその辺で交渉してみますから私にお任せください。それともう1つ良い話です」


 大塚

「なんだ、まだ何かあるのか?」


 俺

「この売買価格とは別に配当が300万円ついておりますので、これも現金でもらえます」


 大塚

「そうか、それは嬉しいな。死んだ親父に感謝だな。前祝いに派手に『パーッ』とやるか?」


 俺

「いいですね。早速今晩にでも繰り出しましょう!」


 わずかこの1分の電話で俺の仕事は全て終わった。お互いの妥協点のさらにいい条件で話がまとまったのである。


 ここで俺が考えているのは自分の仕事のことである。何も時間をかけてボランティアでやっているわけではない。


 大塚社長は1000万円でいいって言ってたところに5300万円が手に入るわけだから差額の4300万円はあぶく銭である。


 一方でS工業は7000万円で話をつけてくれと言ってきたのを5000万円で収めたから2000万円が払わなくて済んだ金となる。


 証券マンの俺の本業は「株式の売買」なので当然両方に恩を売って、この差額の金額を入金してもらって株を買ってもらった事は言うまでもない。


 近江商人が言うところの「3方みな良し」である。


 また今回初めてお客様になったS工業の方にはもう一つ別の目論見があった。


 どちらかと言うとこちらの方が構想としては大きい話である。


 それは思いのほか良い株式評価が出たのでS工業を「上場まで持っていく」話だ。


 一般に証券マンにとって「自分の顧客を上場させる」ことはとんでもない勲章となる。


 もちろん幹事証券会社となって上場までの手数料をもらえると言う金銭的な部分が大きいのであるが、1つの企業を株式市場に上場させると言うこと自体が金メダルに相当するのだ。







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