第174話 現金強盗事件 3

俺は刑事が待つ会議室に入り、ゆっくりと席に座った。


テレビで見るように若いのと年配の2人の刑事が目の前にいる。


これはカツ丼が期待できそうだ。


若い刑事が俺に尋ねてきた。


刑事

「本人確認をします。太田さんですね」

「はい」

さっき指紋とった時に同じ質問しただろうが。


刑事

「さっそくですが、今日の3時から4時の間の動向を聞かせてください。この間、あなたはどこにいましたか?」

聞き方は穏便であるが、半分犯人扱いの口調だ。



もちろんここでは「客先にいた」などと言うつもりはない。

正直にサボっていた喫茶店の名前と一緒にいた後輩の名前を挙げた。

後輩を裏切った事になるが仕方ない。

すまん!松田!



刑事

「それは間違いないですね。あとで調べて違ってたら不利になりますよ」


「はい、間違いありません」


刑事

「それと、先月新車で外車を買ったと聞きましたが」


「来た!ヤバい展開だ」

と思ったが気を取り直して


「はい、それが何か?」


刑事

「いえ、26才で新車で外車を買うとは少し常識では考えられませんので・・・」

それはお前たちの常識だろうが!


「自分のお金で何を買おうと自由ですよね」


刑事

「それはそうですが・・・あと女性社員に聞くと、毎日のように高級なレストランやクラブを飲み歩きをしているそうですね」


「はい、それが仕事ですから」

誰だそんなことで言う社員は?

とっさに3人の顔が候補に上がった。

俺はよくお気に入りのレディさんたちをレストランに連れて行ってあげたが選考から漏れた奴だ。


「コンコン」

会議室のドアがノックされた。


そうこうしていたら後輩の松田が帰ってきたらしい。

だいたい連れてサボった時は時間差で帰社するならわしだ。


「松田さんが帰りました」

レディさんの声。


年配の刑事が部屋を出て行く。

松田から話を聞くのであろう。


「頼む松田、ここは課長に怒られるだろうが大局を見て正直に答えてくれ!」


刑事

「被害者の田村さんは『太田さんに後ろからタックルされて、よろけたスキに鞄を取られた』と言ってますがどう思いますか?」


「それは、あり得ないでしょう」


刑事

「あり得ないとは?」


ここからの回答は「言っていいのか」正直迷った。

ええい、言おう!


「私たち証券マンは『その気』になったら、そんな面倒くさい事はしません」


刑事

「それはどういう意味かな?」


「私たちは、常にそのくらいの金額は集金後、持ち歩いているんです。現に今日も現金1000万円くらい集金して帰ってきました」


刑事

「なるほど。『その気』になる事もある訳だな」


やっぱり言わない方がよかった。


「いや、例えばの話です」


そうこうしていたら年配刑事がメモを持って戻ってきた。


刑事

「松田さんから『先輩と喫茶店に行っていました』と裏が取れました」

メモには喫茶店の名前と電話番号が書いてある。


「ありがとう松田!いい奴だな。俺がカツ丼おごるぜ!」


あとは俺たちが共犯で口裏を合わせていると思うので、その払拭たけだ。


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