第173話 現金強盗事件 2

支店長はどうやら刑事から俺の「普段の生活態度」を聞かれたらしい。


もちろん金融機関である証券会社は入社時に信用調査がある。


当然入社できている俺は一般的に言う所の信用調査はクリアしている。


まあ普通の一般市民だ。


しかし容疑者になれば話は別だ、俺の生活動向を聞いてきたのである。


ヤバい!ヤバすぎる。


バブル時代の証券マンに

「夜遊びをしていないか?金遣いは荒くないか?」

と聞く質問はある意味、魚屋に

「まさか魚を売ってるんじゃないだろうな?」

という質問と同じことになる。


ましてや俺はその前の月にアメ車の赤いカマロを新車で購入したばかりであった。


余談だが俺は、子供の時に見た漫画「タイガーマスク」の最後のエンディングシーンで主人公の伊達直人が赤いスポーツカーに乗って「ちびっこハウス」から去っていく姿に感動した。


だからこれを見て「大きくなったら必ず赤い外車のスポーツカーを買おう」と決めていたのである。


ヤバい!ヤバすぎる。

タイミングは最悪だ。


刑事からすれば怪しむ要素は満載であろう。


外車は買うわ、毎夜クラブで飲み歩きをするわ。


最悪。


しかしそれが万事普通の話であり、我々証券業界にとっては何の不思議でもない話なのである。


支店長

「最近は飲み歩きしているのか?」


「最近はいつも通り、毎夜飲み歩いています。それは支店長も『夜飲み歩きをしない奴は証券マンではない』と言ってましたよね?」


支店長

「しかし、あまりに度が過ぎて飲む事はやはり刑事さんの心証に良くないからな」


「課長からよく『度が過ぎる位の飲み歩きをしなければ一流の営業マンじゃない』と言われています」


支店長

「それはわかる。しかし目をつけられてるのは間違いない」


「支店長、よく考えてください。私たち証券マンは3000万くらいの現金や小切手なんて普段から毎日のように持ち歩いてる金額なんですよ。もしその気になったら、強奪なんてことはしないでも簡単に持ち逃げできる立場にあるじゃないですか」


支店長

「それはそうだな。しかし現金強盗された事は事実だ」

こいつはもう自分の出世を守る保身を考えている。


「普通に考えてください。俺がもし犯人なら今と同じ服装で田村さんを襲いますか?ましてや犯行後に同じ服装でフラッと帰って来ますか?」


支店長

「それはそうだが」


支店長との話の途中で、先ほどの刑事がまたやってきた。


どうやら指紋を取り終わったので取り調べが始まるらしい。


テレビで見るようなカツ丼は出るのであろうか?

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