第172話 現金強盗事件 1
夕方5時くらいに俺は支店に帰っできた時の事である。
支店内がいつになく「しーん」としている。
あの鉄火場ような支店の雰囲気がまるでお通夜のようになっているのだ。
こんな事は初めてだ。
しかも全員の帰ってきた俺を見る目線が「疑惑の眼差し」で見つめられていることを意識した。
俺
「どうしたんですか課長?何かあったのですか?」
課長
「太田、ちょっとこっちこい」
待っていたように俺は会議室に連行された。
課長
「お前、今日の3時半ごろはどこにいた?」
正直に言うと、後輩と喫茶店でヤングジャンプを読んでサボっていた。
仕事なんかやってられるか!
しかし同罪の後輩をかばう意味もあって「客先にいました」と俺は嘘をついた。
課長
「そうか・・・」
どうも歯切れが悪い。
俺
「課長、支店内の雰囲気が何か暗いんですけど、何かあったんですか?」
課長
「お前、ほんとに何も知らないのか?」
俺
「え?知りません」
課長
「実は現金強盗が起こった」
俺
「現金が奪われたんですか?」
課長
「そうだ。現金輸送係の田村さんが背後から何者かに襲われ金を奪われたんだ」
俺
「襲われた?田村さん怪我したんですか?」
課長
「その言い方だとお前、ほんとに何も知らないようだな」
じっと俺の目を見つめて言った。
俺
「いや、ほんとに知らないです」
いつもと雰囲気が違う。
※
うちの支店には「現金を運ぶ仕事」だけをやっている田村さんと言う職員がいた。
彼は俺と同期入社だか、元は電電公社(NTT)にいた社員であった。
ただし同期入社とはいえ、当時40歳位のおじさんだった。
この日の3時過ぎに、彼が支店から現金3000万円を運んでいた時に、後から襲われて現金入りのバックを盗まれると言う事件が起こったのだ。
しかも田村さんが言うには、どうも犯人の背格好と服装が俺によく似ていたらしい。
彼は冗談で俺がやったと勘違いして「太田君、冗談はやめろ!」と叫んで反応が遅くなったと言うことらしい。
この事件は実際に新聞にも掲載され、テレビにも報道された本当にあった事件である。
要は俺はその犯人にでっち上げられたのであった。
言っておくが田村さんと俺は決して「悪い仲」ではない。
それどころかプロパーの俺に比べて社内ヒエラルキーが低いので、はるかに年下ではあるが「目をかけていた」仲である。
しかし迷惑な話であるが、田村さんが俺を容疑者と言ったために俺は警察から来た刑事に指紋を全部とられてまるで罪人扱いを受けた。
指紋は人差し指だけでなく両手の全ての指の指紋をとられた。
「なるほどな、犯罪の容疑者になるということはこういう扱いを受けるんだな」
と俺は思った。
刑事の取り調べが終わると、今度はは支店長から呼び出された。
「最近は派手な遊びをしてないか?」
と聞かれた。
そんなこと言ったらすべての証券マンはみんな毎夜、派手な遊びをしているわけだから、正直返答に困った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます