第171話 年末オークション


もう一つバカ話。


俺のいた支店では、年末の忘年会は会議室を使って全社員が集まり一次会をやる。


会議室にレストランから出前で取った食事とお酒とワインが並べられる。


乾杯の発声と支店長のねぎらいの言葉で忘年会が始まる。


まあ、いつもの光景だ。


そして2時間ほど歓談した後に恒例の「年末オークション」というイベントがあった。


これがまた実にくだらない。


ルールは全社員が、各自その年にもらった、結婚式の引き出物やゴルフの景品などを持ち寄ってそれをオークションにかけるのだ。


俺も使わないネクタイとかハンカチを出品した記憶がある。


競り落とした金はすべて「二次会」と称して大阪のネオン街に溶かす。


ここでやるオークションとはまあ、「バナナの叩き売り」を想像して欲しい。


大体いつも俺が「バナナの叩き売り役」を指名された。


声と態度がでかいからであろう。


叩き売り役の俺の周りには、掛け時計やティーカップセット、タオルなど下らないものがところ狭しと並ぶ。


人数分あるわけだから100品ほどに、ミディさん(おばちゃんたち)やレディさん(お姉さんたち)が群がって品定めしている。


「あら、これいいわね」


「こんなの欲しかったのよ」


などと会話している。


実に微笑ましい光景だ。


俺はこういう実需には優しい。


実況中継


「はい、次はアディダスのタオルセット行きます!市場価格はざっと見て5,000円。まずは100円から」


「200円」

「300円」

「400円」

「400円!もうないか?」

「500円!」

「はい!500円で落札!」


さっき品定めしていたミディさんに落札してもらう。


てな具合で下らない品はどんどん減っていく。


そして一番のクライマックスは支店長の出品である。


「次は支店長からのピンクパンサーのぬいぐるみです。市場価格は秘密です。各営業課長がんばって競り落としてください」

と声をかける。


各営業課長は「支店長への忠誠心」の見せどころだ。

出世もかかった場面である。


「最初は元気よく10,000円からいきましょう」


「15,000円!」

「はい第一営業課長15,000円でました」

「20,000円!」

「次に、第二課長が20,000円でました。さらにないか?」

「25,000円!」

「はい、投資課長25,000円が出ました。ここは忠誠心の見せ所です!もうないか?」

「30,000円!」

「さすがは経理課長、剛気です。もうないか?」

「40,000円!」

「50,000円」

「55,000円!」

「もうないか?もうないか!」

「60,000円!」


なんと、どう見ても1000円くらいのくたびれたピンクパンサーが60,000円で落札された。

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