第171話 衝動買いの権化


衝動買いとは何の考えもなく「見て気に入っただけ」でモノを買う行為である。


そういい意味からすると、おそらく証券マンほど「衝動買いの権化」はいないだろう。


それはそうである、同じ年代からかけ離れたボーナスをもらい金銭感覚が壊れているからである。


たしかに俺たち証券マンは「計画的にものを買う」と言う習慣が全くなかった。


それと一般人のようにゆっくり買い物をすると言うような時間的な余裕もなかった。


その心の隙を狙ってうちの支店の食堂には定期的にさまざまな高額商品を売りに来る連中がいた。


今思うと一体誰が呼んでいたんだろう?

おそらくは、そうとうなリベートをもらっていたに違いない。


ある日、食堂で飯を食べる俺たちの横で宝石商が小さな店を開けている。


学園祭の屋台みたいな店だ。


そして女性の販売員が女の子たちに宝石の説明をしたり、指につけてあげてして「似合うわよ」「とってもいいわよー」とか言ってる。


当然ターゲットは女の子ではなく、結婚していない俺たち若い男性証券マンであった。


「誰誰が近く結婚予定だ」と言う情報をどこからか聞きつけてか、飯を食べてる横にやってきて

「○○さん、ちょっとこれつけてみてください」

と指にリングをはめて熱心に勧めてくる。


大体当時の結婚リングの相場は給与の3倍だった。


100万くらいだ。


俺たちは「午後からの仕切りをどうするか」とか「投資信託をどこではめるか」などと悲惨な話をしている中で販全員があれこれ言ってくる。


めんどくさいから100万円くらいの指輪を「もういいよ。じゃあそれ買います」と何の考えもなく購入するのだ。


すると販売員は「マジ?」みたいな顔をしてさらに「今ならこのカフスボタンとタイピンのセットを20万円でお付けします」と追撃してくる。


まあ、マックで「ポテトを追加でいかがですか?」の乗りだ。


当然めんどくさいからそれもOKする。


「ありがとうございます」と言いながら販売員は次カモを探して瞬時に契約を取る。


おそらくカモがたくさんいると判断したこの販売員のお姉さんの引っ張りであろう、次はスーツの仕立て屋が来た。


言っておくが青○のスーツとは違う。

生地の選定から採寸まで全部やる本格的なやつだ。


だいたい上下で15-20万円くらいだったかな。


当然カモの俺たちは、飯が優先なので簡単に生地と色の選択をした後、採寸して4-5着をまとめ買いすることになる。


まさしく証券マンは衝動買いの権化であった。

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