第170話 葉山さん 2

 その直後、支店長に直通の電話が葉山さんから入った。


 なんでも今からすぐ来るらしい。


 支店長

「葉山さん、『不当な人種差別だ』と相当怒っていたぞ。太田、お前、葉山さんが韓国人と知らなかったのか?」


 俺

「全く知りませんでした」

 金さんや李さんならともかく、そんなのいちいちチェックするかよ。


 支店長

「いずれにしても今から1時間以内に来るらしい。来たらすぐに支店長室に通すように」


 俺

「わかりました」


 ちょうど1時間後、葉山さんが店にやってきた。


 受付で大声がした

「支店長を出せ!」

 早くも戦闘モード全開である。


 しかもでっかいシェパード犬を連れてきている。

 巨漢の葉山さんがでっか犬を連れている様子は、上野動物園の西郷隆盛をイメージしてもらったらわかりやすいだろう。


 犬を連れサングラスをした葉山さんは俺の知っている「紳士の葉山さん」とは全くの別人だ。


 他のお客さんたちが「ヤクザが来た」と思ったのかドン引きしている。

 火の粉を恐れて、いきなり帰り出す客もいた。


 俺

「葉山さん、いらっしゃいませ」


 葉山

「支店長室はどこだ」


 俺

「はい、こちらです。葉山さん今回は不快な思いをさせて申し訳ありませんでした」

 謝りながら支店長室に案内する俺。


 葉山

「人種差別された気持ちだ。とにかく精神衛生上よくない!」


 俺

「お気持ち、よくわかります」


 葉山

「あのな、ワシは太田君には怒ってないんだぞ。天下の○○証券と日本の大蔵省に言いたいことがあるんだ」


 よかった。

 とりあえず俺は暴風圏から逃れたと思い、ほっとした。


 俺

「支店長、葉山さんが来られました」


 支店長

「お入りください」


 思い

「葉山さん、さすがに犬は・・・」


 葉山

「じゃあ犬を見ておいてくれ」

 と犬の手綱を俺に手渡す葉山さん。


 頼むから犬は戦闘モードでないことを祈る俺。


 そして葉山さんはゆっくりと支店長室に入っていった。


 いきなり何やら大声が聞こえてきた。

 テーブルを叩く音もする。

 支店長室の横で「犬の守り」をしている俺は会話の中身が聞き取れなかったがかなり激昂しているのはわかった。


 30分ほどすると大声は聞こえなくなつた。


 いきなり犬が立ち上がり小便をはじめる。

 大型犬の小便の量たるや凄いものでることを俺は知った。

 将来大型犬だけは飼わないと決めた。


 みるみるうちにカーペットが台無しになる。


 1時間後

 2人が笑顔で出てきた。

 支店長は一体どんなマジックを使ったんだ?

 と俺は思った。


 支店長

「おい、太田。葉山さんが新規資金で三菱重工10万株(約5000万円)を買ってくれるそうだ。すぐに買い注文出しておくように」


 俺

「わかりました。葉山さんありがとうございます」


 葉山

「太田さん、NTT株は支店長の采配で別名義で買って倍の12株を回してくれることになった。怒って悪かったな」

 いつもの葉山さんモードに戻っている。


 俺

「よかったですね。三菱重工の株注文はすぐに出しておきます」


 葉山

「あ、犬が粗相していますね。カーペット代は弁償します」


 支店長

「いやいや、これくらは大丈夫ですよ。気にしないでください。それでは気をつけてお帰りください」

 支店から葉山さんを笑顔で送り出す支店長。


 手を振って笑顔で帰っていく葉山さんとスッキリしたシェパード。


 めでたしめでたし。



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