第164話 田主社長との足し算引き算

淀屋橋へ田主社長を送り、神戸に帰るタクシーの中で俺は真剣にいろいろ考えた。


今回のこの「オッズ・ヨーロッパ社詐欺事件」はダイジェストだけ書いたのであまり迫力が伝わらないかもしれないが、真剣に書けば一冊の本が出来上がる位の「非日常的な」出来事であった。


それぐらい体力を使ったし、頭脳と神経も使った。


しかしその結果、俺は社長の2億円を奴らから守りきれなかった。

しかしそうは言っても8億円は守りきったと自負している。


そもそも田主社長の「下半身のだらしなさ」から来た未曾有の災害を、最小限に止めたことを評価されていないと感じた俺は、今までの足し算と引き算を頭の中でやってみた。


社長からもらったもの。


ジャガーのクーペ

ピアジェの時計(あ、交換か)

絵画数点

エスカーダの鞄

毛皮のコート

神戸舞子の別荘の使用権

4大料亭の麻雀の代打ちで稼いだ大金

(あ、これは俺の実力か)


などなど、いろんなものをもらったし、いい経験もさせてもらった。


また、そもそも本業であるところの証券会社での株の売買手数料では相当儲けさせてもらった。


正直、「田主社長だけで食えた」と言っても過言ではない。


おそらく普通の人間の生涯賃金に当たる位は短期間で稼がせてもらった。


これは事実だし、本当にありがたい。

感謝している。


ここまでは足し算。

では引き算をしてみる。


台湾姉ちゃんとの間に出来た子の認知回避。

クラリオンの仕手株戦。

(俺も当然自分の金を注ぎ込んだから相当やられた)

小野薬品・偽株券事件。

オッズ・ヨーロッパ社詐欺事件。

あとはここに書けない、いろいろな厄介な事件の防波堤となった。


結局のところ足し引きはどうなんだ?

自問自答した。


タクシーが神戸の自宅に着いた時には俺は決断していた。


「証券マンを辞める」と。

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