第163話 契約破棄

「これが今回の契約書か?」

清田さんは中本の目の前にあった契約書を掴み取る。


「そうです。印鑑もちゃんと押してあるからこの通りに履行してもらいたいんですわ」

まだがんばって契約の履行を希望する中本。


バカか?こいつは?


「お前な、アホか?現実にありもしない会社で契約も何もないやろうが!」

と中本の目の前で契約書をバリバリと破り灰皿の中に捨てた。


「さっき『暴力うんぬん』言いよったな?お前らが今までやってきたことが暴力やろが?」


「いや暴力はしてません」


「太田さんを監禁したやろ!これは暴力以外何でもないやろが?」


「いやそれは・・・」


「悪く思うんやったら正座せい!」


やたら正座させたがる清田さん。


大きな声の正座要求に中本もついに落城した。


「ええかお前ら!明日から太田はんらに近づくいたらいてまうからな!もちろん田主はんの料亭にも出入り禁止や!わかったか?」


「「はい」」

か細い返事。


「声が小さい!」


「「はい」」


「わかったらええ。次に2人に土下座して『すいません』言え!」


「「すいませんでした」」

俺も体育会系でこの乗りは慣れているが痺れた。


「太田はん、田主はん。ここからはワシらの流儀でやりますから安心して退室してくれなはれ」

どうやら全て終わったようだ。


「わかりました。ありがとうございました」

俺たちはその言葉で部屋を後にした。


エレベーターの中。

「太田はん、えらい捕り物を見せてもらいました。おおきに」


「いや私もあんな風に即死させるとは思ってもみませんでした」


「しかし、蛇の道は蛇でんなぁ」


「本当ですね」


「あの、先ほどから気になってるんやが」


「何ですか?」


「あの清田はんへの謝礼はどのくらい払ったらよろしいでっか?」


「社長は既にあいつらに2億円払ってますよね。それを放棄してください。あとは彼らの流儀でむしり取るそうです」


「はぁ・・・2億円放棄でっか?高い謝礼でんなぁ」


「いいですか社長。さっきまで8億円払えと追い込まれていたんです。それが今、払う必要が無くなったんです。わかりますよね」


「それはありがたいことやと思うんですけど・・・」

煮え切らない。


何か俺は無性に腹が立ってきた。

自分が撒いた種を人任せで解決してもらっておきながら謝礼を渋っているからだ。


「では社長、こう考えましょう。中本から紹介された姉ちゃんとは何回ヤッんですか?」


「そうやな10回くらいはやりましたなー」


「では『一発2000万円で遊んだ』ということにしましょう」


「はぁ、高うつきましたなぁ・・・」


俺はこの一言で正直「心」が折れた。

証券マンを辞める決意が芽生えることになった。

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