第161話 即死作戦

時計の針は6:10を指している。


「まもなく顧問が来るから話はそれからだ」

と俺は言った。

本当に来るのか?


この10分間の奴らの攻撃は、私の筆力ではとうてい語れない。


中本だけでなく、和也も途中から参加してバンバン机の上に広げた契約書を叩きながら大声で迫ってくる。

まことに圧巻である。


「その顧問て一体誰や!」


「そいつもまとめて、いてもうたるわ!」


「江戸時代から続いた料亭を終わらせたる」


「木造建築はよう燃えるそうやな」


「たしか従業員に、綺麗な姉ちゃんがいたな!」


「産まれたばかりの次男を拐う」


「最後まで追い込むからな!」


流石は現役のヤクザだ、一言一言が痺れる。


黙って俺たちは筆舌に尽くしがたい攻撃に耐えた。

水戸黄門のラストシーンを信じて。


印籠信じていいよな。


あまりの傍若無人さに、コーヒーを持ってきたホテルの従業員が気を利かして小声でささやいた


「大丈夫ですか?警察呼びましょうか?」

なかなかしびれる時間が流れた。



6:15になった。


「あー、すまんな!中津からえらい車が混んでたさかいなー」


清田さんがやっと姿を現した。

待ちに待った水戸黄門の登場である。


今までの修羅場をよそに、散歩でもするように普通に部屋に入ってきた。


俺はホッとしたが次にまた別の懸念が起こる。


「来るには来たが、本当に大丈夫なのか?激昂している奴らに印籠は通用するのか?」


のっしのっしと大股でテーブルに近ずく清田さん。

今日は手袋をしているから指がほとんど無いのは見えない。


「こら、われ!誰や?」

和也がさっそく食いかかる。


「清田や」

ドスの効いた声で答える。


「清田?知らんな。中途半端に今回の話に介入したら、われもいてまうぞ」

清田さんは凄む和也を見向きもしない。


「あの人でっか?『その筋の人』ちゅうのは?」

田主社長が小声で俺に尋ねた。


「はい、あとは専門家に任せましょう」

俺は返事して、初めて冷めたコーヒーを飲んだ。


「お前らか?カタギの太田はんらにイタズラしよるんは?」


「「やかましいわ!」」

チンピラたちが清田さんを囲む。

この辺りで出るのか印籠が?


「あー、行儀がなってへんな。吉本に電話せい」

吉本?誰かな?


「吉本いうて、うちの、親分か?」

「親分を呼び捨てにするな!」

ますます凄むチンピラたち。


「やかましい。アホなチンピラは今すぐ正座や!」


「「なんやと!」」

チンピラがさらに囲んで凄むが清田さんは全く平気。


「耳もとで大きい声出すな!それより、はよ正座せい!」

小指で耳を掻きながら、面倒くさそうにチンピラに正座を命令する。

清田さんカツコいい!


でも本当に大丈夫?

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