第160話 決戦

当時ドリカムの「決戦は金曜日」と言う歌謡曲が流行っていた。


我々の中本との決戦もちょうど金曜日の夜であった。


夕方5時に、俺は淀屋橋にある田主社長の会社についた。


「社長、奴らにはロンドンの友人からの報告を私が先にします。とにかく今日は『そんな詐欺話は知らぬ存ぜぬ』で通してください」


「そんなことでホンマに大丈夫でっか?ヤクザも来るんでしょう?」


「大丈夫です。だからこちらも『その筋の人』に来てくれるように頼んでいます。一応今日は立場上『顧問』として呼びました」


「誰でっか、その人は?信用できる人でっしゃろうな?」


「その人は清田さんと言う『その筋』の中でも信用できる人です」


「そもそもあんたが引っかかった奥田よりは信用できます」

と言いたかったが言葉を飲み込んだ。


「とにかく自分が来るまで、中本たちを『できるだけ刺激して怒らせておくように』との指示です」


「え?わざと中本を怒らせるんでっか?」


「はい、なんかその方が『即死させ易い』そうです」


「即死って何でんねん?」


「清田さんの口癖です。さあ、時間ですからそろそろ行きましょうか」

一抹の不安があったが、とにかく俺たちは中之島のロイヤルホテルへ出向いた。


『近づいてく、ふくれた地下鉄で。もうすぐ乗り込む -ダイジョウブ-3回手の平になぞって飲み込む・・・』

思わず俺は心の中でドリカムの「決戦は金曜日」を口ずさんでいた。


5分前にホテルに着いて指定された部屋に入ると、すでに中本たちは来ていた。

奴は偉そうな姿勢でふんぞり返って椅子に座っていた。


後には兄貴の和也と若い衆が4名ついていた。


全員見たことがある顔だ。


入る時に若い衆が「監禁から逃げた俺」を睨む。


俺と社長はゆっくりと奴らの前に座った。


「社長、何遍電話しても出まへんでしたな。もう逃げまわることはできまへんで」

馬脚を現した中本がゆっくりつぶやいた。


「中本、俺のロンドンの友人から調査報告が来た。全部でたらめな話だろう?」


「そんなことは関係ない。このように契約書も書いてますから履行してもらわな困りますな」


「そんなもん知らんがな。太田はんが言うには『全くでたらめな話』やおまへんか?」


「おい、こら!何がでたらめな話や!」

後ろの和也が凄む。


「和也さん。俺を監禁しておいて今更よく言うな」


「誰が監禁したんや!いつでも出れたやろうが!」


「おかげで次男の出産に立ち合えなかった」


「そんな話は今関係ないやろが!」

中本が怒り出した。


清田さんの言うとおりの展開になってきた。


俺は時計を見る。

6時になった。

まだ清田さんは来ない。


「本当に清田さん来るのか?」

少し心配になる俺。

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