第152話 軟禁

俺は生まれて初めて反社会組織の「軟禁」なるものを経験した。


というか知らない間に軟禁されていた。




その夜、いつものようにクラブ周りを終えた中本と俺は帰途についたが、急に奴は

「太田さん、今から岸和田に行きませんか?」

と突然言いだした。


「岸和田?また何でだ?」


「急に岸和田のガッチョ(岸和田名物、小魚のから揚げ料理)を食べたくなりました。知っているいい店があるから飲み直しをしましょう」


「ああ、面白そうだな。行こうか」


俺たちを乗せたロールスロイスは高速道路に入り岸和田に向かい、岸和田駅前にある小料理屋でガッチョを食べ飲み直した。


個人的にはガッチョは美味いから大好きだ。


しばらくしたらどう見てもチンピラ風の男が3人店に入ってきたのだ。


「あ、兄貴こっちこっち」

中本が彼らをテーブルに招く。


その中の一番兄貴風の男が俺に挨拶をしてきた。


「初めまして中本の兄の和也と言います。弟がお世話になっているようて」


「お、中本さんのお兄さんですか?」


「そうです。○○組の若頭をやっています。こいつらは舎弟分です。おい!挨拶しろ」


「「へい」」


と舎弟分たちが挨拶をする。

ヤクザにしては軽めで愛想がよかった。


「弟から聞きましたが、太田さんは麻雀が強いらしいですね」

俺にビールを注ぎながら奴は言った。


「まあまあです」

ちなみに俺は大学時代に「関西学生麻雀のチャンピオン」だ。


「弟は麻雀できませんが、ちょうど4人いますから、今から麻雀しませんか?」


「ああ、構わないよ」

俺は何の疑いもなく返事した。

これが誤りであった。


「ところでどこでやるんだ?雀荘か?」


「いえ、この近くに舎弟たちを住まわしているマンションがあります。麻雀卓もあります」


「お、準備いいな」


小料理屋を出た俺はあるマンションに連れていかれた。


中本はマンションまでは付いてきたが

「太田さん、私は麻雀ができないのでここで失礼します。麻雀が終わったら若いモンがお送りします」


「わかった」


「それとお渡ししたセルラー電話、新しい機種に交換しますから渡してください。すぐに新しい機種をお渡しします」

俺はその言葉を信じて、唯一の外部との通信手段であるセルラー電話を中本に手渡した。

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