第153話 監禁と軟禁
マンションに入ると確かに奴らの言うとおり全自動の麻雀卓が用意されてあった。
「さあ、太田さん。さっそく麻雀を始めましょう」
と中本の兄貴の和也が言った。
夜11時ごろにスタートした麻雀であるが、奴らの麻雀のレベルは関西学生チャンピオンの俺からしたら屁みたいなレベルだった。
深夜3時を回った頃に俺は言った。
「ところでいったい、いつまで麻雀を続けるんだ?そろそろ帰りたいんだが」
この質問で、初めて奴らの本性が出た。
「太田はん、悪いんやけれども1週間ここで麻雀やってもらいま」
太田さんが太田はんに変わった。
「1週間?」
「せや、1週間や」
口のききかたも横柄になる。
「俺は来週、大事な契約と仕事があるんだ。麻雀は大好きだがそんなに長くできない」
「太田はん、立場がわかってまへんな。とにかくや、1週間はここにいてもらいま」
ドスが効いた声でやつはそう言った。
「中本の指示か?」
「まあな」
この一言で「ベット・ヨーロッパ社の話が詐欺と確定。
「田主社長との契約があるから俺を監禁するんだな」
「まあな」
「俺抜きで契約を進めるつもりか?」
「まあな。おい、お前ら!太田はんは長期滞在や。ドアはいつも半開きにしておけよ」
「「へい」」
そう言えば、入ってきたドアはスリッパをかまして半分だけ開けていたのを思い出した。
無用心だなと思った。
なるほどな、ドアを閉めたら「監禁」になるのか。
こいつらは監禁のプロだ。
ドアをいつも開けて「軟禁」としたのだ。
俺は立場を忘れて、プロの姿を見たような気がした。
「太田はん。基本、外出はええけど外は危ないからこいつらがボディガードに付いていきま」
くそ!何がボディガードだ!
後から聞いた話であるが、俺は1週間ロンドンに行っているから連絡はつかないと田主社長には伝わってたらしい。
当時はインターネットも無い時代だったから海外に出たら連絡の取りようが無かった。
まぁ、いずれにしても1週間の軟禁生活が始まった。
外部との通話もできないので、俺はなんとか今の状況を田主社長に伝えたかったが部屋に電話がない。
やることが全くないから、毎日のように入れ替わりやってくるチンピラ達と麻雀や花札の相手をしていた。
こいつらは花札も弱い。
花札はヤクザの国技ではないのか?
最初は「監禁する側」と「される側」で会話もギクシャクしていた。
何回も「監禁の対象」の俺に恫喝もあった。
しかし人間というのは面白いものだ。
女の話や故郷の話、何でヤクザになったかとか話してるうちになんとなく仲良くなってきたである。
これをストックホルム症候群と言うのか。
なるほど。
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