第149話 中本からのプレゼント

最初に言っておくが、俺の座右の銘は「公私混同」である。


これは当時も今も全く変わってない。


だから俺は中本から貰った230万のロレックスを快くいただいた。


中本に会った次の週


俺は約束どおり、中本がオープンした本町の大阪支店に訪れた。


ロケーションは大阪の一等地にある本町の新築ビルの中にあった。


事務所の入り口には「ベット・ヨーロッパ大阪支社」と看板があった。


ざっと見まわしても家賃は100万円位はする。


「太田さんですね。お待ちしておりました」

美人の受付嬢が俺を中に案内する。


知ってのとおり俺は美人に弱い。


中に入り、並べられた調度類もかなり立派なものを揃えていた。


今から思えば「ダマし予算」が1億円があるので、いいものを揃えることは造作もなかったであろう。


「やー、太田さん。いらっしゃい、こちらにおかけください」


奴の勧める高級なソファーに腰かけた俺の前に高級なブランデーが並ぶ。


「なかなか立派な事務所ですね」


「はい、ロンドンの本社が儲かっていますから何でもありませんよ。本社はもっと豪勢な作りですよ」

とブランデーを勧めてきた。


しばらく歓談した後

「実は、太田さんの部屋もこちらに用意してあるんですよ」

と奥の部屋を指差した。


「え?なんで?」

俺が聞くと


「実は日本での事業がうまくいったら太田さんには役員になって欲しいなと思っております」


「俺が役員?」

公私混同の芽が少し顔を出した。


「そしてこれは、役員全員に渡す携帯電話です」

と言ってやつは出たばっかりのモトローラのセルラーフォンを俺に差し出した。


当時の俺は当然、携帯電話を使っていたがNTTの初号機でかなり重いタイプであった。

例えるなら陸上自衛隊が肩から下げているような重いやつを想像していただきたい。


「やはり良い携帯電話を持たないといいビジネスマンではないですよね」

とロレックスを渡すときと同じような臭いセリフを言ってきた。


言っておくが今のように携帯電話が安い時代の話ではない。


当時の携帯電話っていうのは、世に出たばっかりだったので一言も通話しなくても基本料金160,000円をとられた。


また当然それに通話料金が加算されるので1ケ月の通話料は何十万円と言う代物であった。


それをやつは簡単にプレゼントしようと言うのである。


しかもこれはポケットに入る大きさだから便利そうだ。


「なかなかやるじゃないか中本!」と心の中で俺は思った。


「さぁ本題に入りましょう。先日打ち合わせした通り、御社の事業予想とロンドンのベッティング会社のライセンスの書類一式をお願いいたします」

俺はこう見えてもプロの金融マンである。

企業の過去の情報であるバランスシートや将来の事業予想のチェックはお手のものである。


よって素人のように簡単にごまかすわけにはいかない。

中本もそれは重々承知している。


「次に親会社がロンドンに本拠地がありますが、その会社の登記簿謄本と約款、ライセンスを見せてください」

ここでスラスラと書類が出てきたのでチェックする。


最悪出てこなかった場合は俺の友人が元の4大証券のロンドン支店にいるので、同時並行して調べさせていた。


この辺は余念がない。


何しろ10億の事業だ。


それぐらいの慎重さでもってかからなければ田主社長を守ることができない。


さあ!俺の壁を越えれるか?中本

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る