第130話 黒チン危機一髪

86話で出てきた岡山支店から赴任した「早川くん」と言う名前を覚えているだろうか。


彼は営業畑を歩んできたが、あまりにも顧客の株をダマテン(顧客の指示なく勝手に株を売買すること)するので「性格破綻者」とされてわが支店の経理に左遷されてきた男である。


当時の証券マンはほとんど全員が「性格破綻者」だと思うがその証券会社にさらに「性格破綻者」と烙印を押された名誉ある人物だ。


イギリスでいえばさながら「サー」の称号に匹敵する。


今回の話は早川くんが主人公である。


早川くんは一応俺の2年先輩であることを伝えておく。



青木社長の別荘でディナーを満喫したわれわれはお風呂に入って大広間でビデオを見ながらくつろいでいるが、そのまままっすぐ就寝するわけはない。


酒をしこたま飲んだ証券マンとレディーさん達は俺の部屋に集まって、当時流行っていた「黒ひげ危機一髪」というのやろうということになった。


知らない方のために「黒ひげ危機一髪」と言うゲームのルールを説明すると、おもちゃの樽の中に「黒ヒゲ」をセットして全員が順番にちっちゃな剣を樽に開けられた穴に刺していくゲームだ。


すると「ビンゴの穴」を刺した剣によってランダムに「黒ひげ」がぴょこんと樽から飛び出してくると言うたわいもないゲームである。


刺す穴の数は20個ほどあったが、ランダムであるから1人目からいきなり飛び出すこともある。


誠にスリリングなゲームだ。


これは当時よく、飲み屋やクラブなどで流行っていたゲームで、罰ゲームとしてホステスと客が交互に「黒ひげ」を刺して、飛び出させたやつは酒を一気飲みさせられると言う飲屋街ではポピュラーなゲームであった。


最初俺たちはこのゲームで「黒ひげ」を飛び出させたやつに酒の一気飲みと言ういつものパターンの罰ゲームをやっていたが、途中で早川くんがダウンしてベッドの上に寝てしまった。


早川くんは決して酒に弱いタイプではないが我々証券マンのスタンダードから考えると弱い部類に入る。


しかもどういうわけか早川くんがさしたときに集中して「黒ひげ」が飛び出したのである。


そしてこいつの寝相はとても悪くて、着ていた浴衣が寝返りを打ったら、はだけて股間のイチモツを我々の前に曝け出していた。


「おい、寝るときパンツは履かないのかよ!」と誰もが突っ込んだ。


女の子たちは「きゃー」と言いつつも指の隙間からしっかり早川くんの黒々としたイチモツと凝視していたのは言うまでもない。


その時に誰かが言った。

「おい!せっかくだから『黒ちん危機一髪』やらないか?」と。


何が「せっかく」かがよくわからない


人間と言うものはとっさの時に様々なものを発明するものである。


彼が言うには、「黒ひげ危機一髪」はもう飽きたから同じルールを早川くんの股間で適用しようと言うことである。


つまり全員が持ったちっちゃな剣で順番に早川くんのイチモツを刺していき、「誰が早川くんを起こすか」ということで勝敗を決めようと言うシンプルなゲームであった。


当然早川くんを起こしたやつは罰として一気飲みをしなければならない。


最初は俺が刺した。


結構深めに刺したつもりであるが早川くんは「ううっ」と言っただけで起きなかった。


「ラッキー!はい次!」


次のやつも同じようにやったがなかなか起きない。

全員が「結構、早川くんの黒チンはしぶといな」と思ったものである。


そして男性陣が刺し終わり、いよいよ女の子の番である。


最初に剣を持ったのはもちろん、「我らの勇者」天女木下さんである。


彼女の後ろに後光が見えた。


彼女は何につけても我々のバカな発想の突破口になるからとても便利である。


木下さんも黒チンを凝視しながら「どこにしようかな?」と悩んだあと根元に深々と剣を刺したが、やはり早川くんは「うんうん」と言っただけで起きない。


「やったークリア!」とガッツポーズではしゃぐ天女。


木下さんに続いてレディーさん達がめいめいにに剣をさしていく。


俺たちが「さすがにそこは痛いだろうが」と思うところも女性だから多分わからないので遠慮なく刺す。


慣れとは恐ろしいものだ。


その都度に早川くんは「ううっ」と言う声をたてる。


非常にスリリングだ。


10回ぐらいやったときに、初めて早川くんが大激怒して飛び起きた。


早川くんは立ち上がって

「誰や!さっきから俺のちんちんで遊んでるやつは!」

と、言ってまた大いびきをかいて寝だした。


「はい、○○さんの負けー!一気飲みな!」


早川くんを起こしたレディさんが一気飲みさせられる。


ここで「第一回 黒ちん危機一髪」の勝敗がついた。


さらに「第二回」「第三回」大会と続いていく。


3回目で起き上がった早川くんの言葉を今でも覚えている。


「お前ら!仲よう遊べや!」


今もって意味がわからない。


言われなくても、ずっと早川くんのちんちんで全員が仲良く遊んでいるのだが・・・


翌朝本人に聞いても全然記憶がないそうだ。


まあ何にしても「おおらか」な時代であった。


今これやったら多分セクハラで全員逮捕だろうなと思う。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る