第119話 絨毯買い

大人買いっていう言葉がある。

子供相手のお菓子やらケーキなどを大人の資本力に任せて大量買いする行為だ。


我々の娯楽「絨毯買い」はこれによく似ている。


俺たちが大阪・難波に遊びに行ったら飲み屋からまた飲み屋に回遊する間に必ず出くわすのがイヤリングを自作して歩道上に黒い絨毯を敷いてその上に並べて販売している兄ちゃんたちの簡易商店であった。



見た限りでは大体平均して1つの絨毯に100個位のイヤリングを並べて酔っ払ってフラフラしている人たちに売っているなりわいであったが俺たちはこの兄ちゃんたちを相手に遊ぶのである。


「お兄さん!イヤリングいかがでしょうか?彼女にプレゼントしたら喜びますよ」

の呼び込みに対して作戦が開始される。


「お、ええな」


立ち止まって手にとってよく見ると大体のイヤリングが金色や銀色の針金をペンチを使って曲げただけの誰が見ても素人細工のものが多かった。


「ほな買うわ。1個なんぼするんや?」と聞いたら

「ありがとうございます、どれでも一つ2000円です」とか言いやがる。


どう考えても原価は一つ10円だ。

あとは細工の手間賃。


「んー、2000円か、高いな(別に高くともなんともないが)2つ買ったら負けてくれるんやろうな」と言う。


「もちろんです!」

と今後の展開も知らずに喜んで言う。


「じゃあ、いくらになるんだ?」


「二個で1800円です」


「わかったじゃぁ彼女多いから10個買ったら?」


「1500円に勉強します」


「じゃぁ30個買ったらいくらだ?」


ちょっと考えて

「1200円です。ていうかほんとに買うんですか?」

この辺から俺たちのことを疑いだす。


俺たちの懐具合を知らないこと甚だしい。


「ああ、もちろん買う。もしも、もしもだ。この絨毯の半分買ったらいくらだ?」


「1000円です」

半額まで下がった。


「もしもだよ、絨毯全部買ったらいくらかな?」


「800円です」どんどん下がっていく。


「よし決まった。全部買う!でいくらだ?」


「全部で100ほどありますから8万円になります。大丈夫ですか?」


「わかった8万円に1万円をつけて合計9万円を払う」

と俺は財布から9万円を兄ちゃんに手渡す。

大喜びだ。


「え?この1万円は?」


「お前のアルバイト代だ。今からこの100個のイヤリングは俺が所有者だ。この時間から朝までお前は今まで通り通行客にこれを売ってくれ。さっきみたいに割引すんなよ、俺の大切な商品だからな」


「は、はい」

ポカンとするにいちゃん。

必死に今起こっていることを自分の常識で理解しようと努めている。


「いいか、俺はあそこに見える飲み屋で朝まで飲んでいるから売れたらちゃんと売り上げを持ってこい」と言って飲み屋に消えていく。


当然「馬鹿な客だ」

と思ってそのまま商品と売り上げを持ち逃げする奴もいる。


持ち逃げした不届きな奴は、また次の夜に見つけて怒らずに同じことを吹っかける。


反復練習だ。


しかし半分ぐらいの確率でちゃんと売り上げを飲み屋まで持ってくるいい奴もいた。


だいたいは売れたイヤリングの利益で飲み代はただになった。


その場合は一緒に朝までそいつと飲んだものだ。


また売れ残ったイヤリングは翌朝支店の女の子たちにタダであげた。


くだらない遊びと思われると思うが、現在でもパチンコ屋で1日かるく10万円位をスる若者が多いと聞くがそれ以下で遊べるなら安いものであるという感覚であった。


くだらないパチンコでスることを思えば何でもない。

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