第117話 国技「ナンパ」
街中でガールハントを意味する「ナンパ」はもう我々あつかましい証券マンにとっては国技みたいものである。
それはそうである、日本中で1番難しい「資産家をナンパする」という行為を毎日のように仕事としてやっている我々にとっては素人姉ちゃんの1人や2人に声をかけて引っ張ってくることぐらい朝飯前の作業であった。
その昔、日本陸軍中野学校では最終試験として決められた時間内に女の子5人ナンパして指定された場所に連れてこいと言う項目があった。
中野学校とは優秀な諜報部員を育てる学校で女性に接触して信頼させてナンパすると言う行為くらいできなければとても優秀なスパイとは認められなかったからである。
我々が所蔵する証券会社でも中野学校のOBかいたのかどうかわからないが同じような風習があった。
先輩証券マンと繁華街に行き「お前たち今から人数分のギャルを連れて来い。しかも30分以内だ」と全く中野学校と同じカリキュラムが偶然かどうか知らないが存在した。
そこで新人であるわれわれは大阪難波のナンパの名所である心斎橋に行って暇そうにしてる女の子を見つけては声をかけていった。
前にも述べたように、1日100件飛び込み営業をやって社長や経営者から怒られ続けている我々にとってはこんなものはリスクゼロなので朝飯前であった。
ましてや湯水のように金銭的な後ろ盾があるので後顧の憂いなくナンパに専念できたのである。
方法としては「この店に行きたいのだが道を教えてくれ」と姉ちゃんに近づいてその店の地図を見ながら「今どの辺にいるのか?」と大阪の素人のようなふりをしてアプローチする。
そして彼女たちから「どこどこだ」と教えてもらうと「せっかくだから、ご馳走するから一緒に来ないか」と誘う。
何の造作もない。
当然探している店は彼女たちが行ったことないような超のつく高級店なので余程の理由がない限り90%の確率でついてきた。
もちろんちゃんとフルコースをご馳走してやる。
中には「友達と待ち合わせをしてる」と言う理由で断る連中もいたが「ちょうどいい!その友達も一緒に行こう」と強引に誘う。
証券マンは相手の言い訳なんていちいち聞く耳を持たない。
こんなことを何度もやっているとルーチンワークになってきて最終的にはこのわざとらしいアプローチすらもめんどくさくなってきた。
最後のほうになるとめんどくさいから「はい、お待たせ!」「付いて来て」と声をかけるだけでついてくるやつかどうかの見極めができるようになっていた。
成績の良い風俗店の呼び込みのにいちゃんみたいな感覚である。
何でも「慣れ」というのはたいしたもんである。
ギャルたちが誰かと実際に待ち合わせをしてるかどうか、または暇で仕方ないので声をかけられるのを待っているかの区別がつく。
やり続けていると陸軍中野学校の最終試験の目的がだいたいわかってきた。
「洞察力の育成」
「自信を持って大きな声でウソをつく」
「短時間で自分を信頼させる」
この3点である。
このようにしてめでたく人数分のギャルを調達して先輩たちが待つレストランに無事連れて行くのであった。
めでたく新人の卒業試験終了である。
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