第111話 女帝 尾上縫 3
金融業界を巻き込んだ空前絶後の不正融資事件の真相を理解していただけたであろうか。
しかし冷静に考えてみるといかにバブル時代であったとは言え3兆円に近い金を金融機関からそう簡単に借りることが可能だったのか?
おそらくそれを可能にしたのは以下の五つであろう。
1 バブル時代の不動産・株価の高騰
2 金融機関の厳しいノルマ
3 尾上の「名器」
4 宗教法人の教祖のようなカリスマ性
5 銀行が超えてはならない一線を超えた
以上の5つが揃わなければいかにバブル時代とは言えあんな狂人的な融資を実行されなかったはずである。
あんな「ガマのお告げ」なんてのはバブル時代は四季報を目をつぶって開けた銘柄を買っても全て上がった時代なので誰でもできる芸当だ。
ここでは5番目の銀行がいかにして「一線を超えたか」と言うところを強調して説明したい。
資本主義経済で生きる我々は銀行のステータスをその頃は信じて疑わなかった(バブル以降は吹っ飛んだ銀行がかなり出たのでこのステータスは揺らぐことになる)
であるから当然その銀行が発行した「預金証明書」なるものは公的機関が発行した証明書に匹敵するような効力があったである。
だから根本的にこれが銀行自体が詐欺を目的で偽造され乱発されるとなると、もう誰も抵抗する術がなくなってしまう。
我々証券業界にもこれと同じようなものがあって株券本券の「預かり証」というのが存在した。
ほとんど我々証券マンの顧客は毎日のように株を売ったり買ったりする回数が多いので株券の本券をいちいち売買の都度に持ってくるような人は少なかった。
つまり株を買った場合、株券はわが証券会社が預かり、その「預かり証」と言うものが顧客に手渡されるのである。
反対に株を売った場合には「預かり証」を証券会社に持参して決済をする制度だ。
「預かり証」というのはまさに文字通り「この会社の株券を何株預かっていますよ」って言うのを証券会社が証明するだけの書類である。
よって当然この「預かり証」自体に資産価値はないし担保性もない。
株券本体には資産価値があり担保性もあった。
だから「預かり証」の表面にはご丁寧にも必ず「質入れ禁止」と言う文言が赤い太字で入っていたのを覚えている。
つまり担保性のないこの「預かり証」を銀行に持っていってもお金を借りれないと言うことである。
ここ大事なとこなので覚えておいて欲しい。
しかしあまり言いたくはないがここに抜け道が存在していた。
もし投資家が「預かり証」を紛失した場合、担当者の判断によって本人の実印と印鑑証明さえあれば再発行が可能だったのだ。
例えば1億円分の株の「預かり証」を紛失したらもう一度同じ「預かり証」を書類に実印を押してたら簡単に再発行できた。
ここまでのルールをとりあえず覚えておいて欲しい。
しかしこれだけではまだ悪事を働くことができないのでやはりここで強力な銀行の協力が必要となる。
次回は性格破綻の我々証券マンですら度肝を抜くような「ど根性」を持った地銀の融資担当課長を紹介したいと思う。
尾上縫の詐欺事件とははるかに桁が違うが俺はこの融資課長の考え方を知ることによって尾上事件の真相を深く理解することができた。
えーい、もう全て時効なので潔く全部バラすぜ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます