第106話 ブラジル・ファンド
午後2時
「太田さーん、3番に電話です。上村社長からです」
「はい、代わりました太田です」
「ああ、太田さん。たしか一年前に1億円で買ったブラジルファンドは今いくらになっている?」
「少しお待ちください」
上村社長は国立大学の理系出身の社長で塗料の会社を経営している。
しかもこの会社の塗料は特殊で、何でも「蛎殻がつかない特殊な成分」が入っていて造船業界華やかなりし頃に「いくら走っても常に船に蛎殻がつかない塗料」としてバカ売れして大儲けした社長である。
俺は1年前にこの会社の余剰資金運用でブラジルファンドを1億円買ってもらってたのである。
俺は課長の席にある外国物ファンドの値段表を確認するために移動した。
課長
「太田、何だ?」
俺
「例のブラジルファンドです。上村社長」
課長
「ああ、ほぼゼロに近いぞ、覚悟しろ」
俺
「え?ゼロですか?」
課長が無言で「海外ファンド値段表」を俺に渡す。
俺はそれを受け取って電卓で計算するとなんとわずか220万円であった。
考えても、無駄だ。
何も考えずに電話するのみ。
「社長、現在は220万円ほどです」
と俺は素直に過酷な現実を伝えた。
すると上村社長は
「そうか、1億投資して1年間で220万円の金利か。少ないけどまぁ良しとしようか、海外モノは損することがあるからな」
と能天気に言った。
ここに双方の理解に大きな齟齬がある。
そこで俺はゆっくり深呼吸して大きな誤解をしている社長に対して言った。
「社長、冷静に私が今から言う話をよく聞いて下さい。1億に220万円の金利が付いたのではなく、1億が220万円になったのです」
と伝えると突然上村社長は電話をガチャっと切った。
数分後にまたレディーさんが
「太田さん、上村社長の秘書の方からお電話です」
との事
「はい、太田です」
秘書
「太田さん、社長がかなり怒っておりますのですぐに来たほうがいいと思いますよ」
この秘書とは結構仲が良いので裏事情まで教えてくれる。
そこで俺は外出の用意をし、その旨を課長に伝えた。
課長はただ一言
「これは修羅場だな・・・戦ってこい」
他人事みたいに気楽なもんだ。
※
話は変わるが俺はサッカーが大好きである。
4年に1度のワールドカップを心から待ち望むタイプの人種だ。
特にワールドカップ参加国の中ではブラジルが1番好きである。
なんといっても他の参加国よりも卓越して技と力が安定してるからだ。
しかし証券マンとしての俺の心の中ではブラジルと言うのは「最悪の国」としての印象しかない。
おそらくこの本を読んでくれている中で元証券マンがいると思うがこの「ブラジル・ファンド」と言う言葉に対しては全く同じ思いを持たれているであろう。
異論があれば受け付けたい!
当時発展途上国であったブラジルの国の借金を甘い日本政府が引き受けたわけであるが、これがまた何兆円ものとんでもない金額で、多分4大証券全部で分けて全てを消化したと思う。
しかしその結果はサッカーとは全く真逆の「大惨敗」で1年間運用してその結果は上記のようにほぼゼロに近い状態であった。
太田君は今からまさにこのブラジル・ファンドを勧めた投資客の元に闘いに行くのであった。
戦え太田君!
上村社長が君を待っているぞ!
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