第104話 証券マンの副業 1
今でこそ世の中は会社に勤めながらの「副業」に対してはおおらかな時代になってきつつある。
が当時は俺の勤めていた証券会社を含めて、副業はきつく禁じられていた。
とは言え自分の顧客ネットワークを使ってその気になればいろいろな仲介業ができた。
それはそうである。
証券会社の顧客というのは裕福な人が多いのでバブル当時は結構いろんな贅沢な買い物を好んでしてたからである。
俺が在職中にはかなりいろんなものを仲介した記憶がある。
高校時代の連れが外車ディーラーのヤナセに就職していたので、彼は俺に対して「売れたらマージンをやるから外車を販売するのを手伝ってくれ」と持ちかけてきた。
頭の良いやつだ。
会社の規則があるので俺は「マージンはいらんけど手伝ってやるよ」と言った。
車などの売り方は株に比べると簡単である。
俺はどの顧客がいくら資産があるかを知っているし、しかもいくら今儲かっているかも熟知している。
株で儲かった客を中心に「社長、新しいベンツが出ましたよ。友達がヤナセにいるんですが買いませんか?」
と持ちかけると儲かった直後であるから財布の紐がゆるいので
「おう、儲かった記念に1台買おうか」
てなものである。
簡単極まりない。
俺にとってみれば不確定な株を売るよりも目に見える現物の車などを売る方が簡単であった。
秒殺である。
1番よく売ったのがキャンピングカーである。
俺の顧客はすでに外車等は2-3台軽く持っている連中なので、持ってないものをやはり仕掛けるのが商売の常道である。
当時のバブル時期は10人ぐらい寝泊まりできるベッドのついた大きなキャンピングカーが非常に人気があった。
大型の免許がないと運転できないタイプである。
しかもこいつはオーダーメイドに近いので台数がそんなに揃わない。
まさに見栄を張りたい富裕層のハートをくすぐるにはぴったりの商品だった。
そして納品が終わったらミスター・ヤナセは俺を食事に連れ出して「マージンは渡せないけれども俺はここにこの封筒を忘れて帰る。後はこれをお前がどうするかは俺は感知しない」といって常に20-30万円の入った封筒をおいてはレストランの会計を済ませて彼はさっさと帰っていった。
なかなかオシャレである。
ちなみに彼は俺のサポートがあったからかどうかわからないがヤナセではナンバーワンの営業成績だったと言う。
※
この方式で俺が今まで売ったものは、車、クルーザー、別荘、絵画、マンション、ゴルフの会員権などなど。
顧客が売りたいと言ったら買いたい人を見つけて、逆に買いたいと言えば売りたい人を見つけると言う非常に単純な作業で結構小遣いが手に入ったものである。
この事は当然会社には内緒にしていたが後から聞くとほとんどの証券マンや銀行マンが同じようなことをやっていた。
心配して損した気分だ。
こういう時に自分の「小市民さ」を再確認する。
いずれにせよ、こういう不定期収入の小遣いが「バブル時代」と言う金遣いの荒い時代の一因となった事は言うまでもない。
最初からなかった金なのでもちろんその封筒の中身はその日のうちに綺麗に散財してしまう。
江戸っ子ではないが「宵越しの金は持たない」のが当時の風潮であった。
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