第103話 元号改正

昭和から平成へ


明日から、元号が変わると聞く。


「元号が変わる」と聞いて思い出した話がある。


もちろん前回の「昭和から平成」に変わるときの話である。


実際に元号が変わったのは昭和64年の1月になってからのことである(だから昭和64年生まれの方は少ない)が、その前年の昭和63年の9月ごろから昭和天皇のご容態が悪くなり入院の報が入った。


その後毎日、新聞には「陛下、下血何CC」と言うような形で天皇陛下の容体が新聞やテレビなどでニュースになっていたときのことである。


国民はそのニュースを毎日見るにつけて天皇陛下の健康回復を心から祈っている最中のことである。


日本中は「自粛」ムードになり、御堂筋パレードや長崎おくんち祭りなどの「大騒ぎイベント」が中止とされた。


テレビのCMも派手な「馬鹿騒ぎモノ」が消えていった。


故・樹木希林が「お正月を写そう!」という名物富士フィルムのCMを「急遽、静粛バージョンを取り直した」と以前言っていたのを思い出す。


取り直す前はよほど「ぶっ飛んだ」CMだったのであろう。



さらに国民は厳粛な気持ちで陛下の健康回復を祈って皇居に記帳のために長蛇の列が出来たほどだ。


しかし、しかしである

おそらく頭の良い投資家が最初に考えたのであろう「そういえば天皇が崩御したら元号が変わるな。元号が変わったら儲かる会社が出るのではないか」と。


今回のように天皇が在位中に元号が変わるわけではなく崩御されてから元号が変わるのである。


12月に入ったら証券業界では「そろそろ次の元号が変わる」と言うことが不謹慎にも株価に反映されていた。


具体的に上がり出した銘柄は、ズバリ元号が変わることによって利益が出る会社。


例えば印刷会社(大日本印刷、凸版印刷)やインク会社(大日本インキ、東洋インク、サカタインク)などの会社の株が反応しはじめた。


理由はすべての手帳や暦、書類などが元号が変わることによって「書き換えの特需によって利益が出る」と言うことで株価が急上昇したのであった。


当然、株価が上がる理由が「天皇崩御による元号改正」であったがあまりにも不謹慎なので表向きは「デノミ関連株」と嘘をついて顧客に勧めたのを覚えている。


デノミと言うのはお札の単位が1万円札が100円になり1000円札が10円になる「単位切り下げ」のことであるがこの当時はデノミが行われると言う事実は全くなかった。


つまりまことしやかな嘘が流されたのである。


また投資家は全部そんな嘘は分かっていてあくまでも印刷・インク業界が急騰している理由はまもなく天皇が崩御すること言うことを確信していた。


不謹慎極まりない。


このことによって怒ったのが天皇を崇拝する右翼団体である。


例の真っ黒い街宣車に乗って多数の右翼が「畏れ多い天皇の崩御で金儲けするとは誠にけしからん!」と言うことで怒り出したのだ。


毎朝弊社を含めた4大証券すべての本社の周りを多数の街宣車で囲みマイクで証券会社を高らかに「非国民扱い」をしたのである。


新聞では各証券会社の広報担当部長が出てきて右翼代表に平謝りする光景が毎日のように行われていた。


しかしそんなドタバタがありながらも株価のほうは一向に下げる気配はなくむしろこれが「いい広告」となりどんどん上がっていった記憶がある。


翌年、陛下が崩御されて「平成」となると軒並み先ほどの会社の株価は下がり始めた。


「特需」がなくなると株価は急激に下がる。

投資家たちは利益を確保しようと我先に株を売る。

売るからまた下がる。


天皇の崩御という国民としての一大事にもかかわらず金の亡者と化していた。



このことに関してだけでなく俺は証券業界が何度も「人の不幸」で儲けるところを寂しい思いで見たものである。


同じ理由で1995年の阪神大震災の後の建設会社の株が急騰したり住宅会社や建設資材の株が上がったのを見るとあまりの節操のなさに人間の悲しい性を見るのであった。



声を大にして言いたい

「戦争にもルールがあるだろうが!」

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