第87話 日曜日の拷問



日曜日 午前7時半 自宅にて


「先輩、休みのこんな時間に電話してすいません 」


「おう太田か、朝からどうしたんや?何かあったんか?」


「いや、明日は投資信託の締切日ですよね。僕はほとんど旗(できていないのに出来てると嘘をついてること)なんですが先輩はどうですか?」


「そんなもん俺もほとんど旗や。みんな一緒やから心配せんでもええ」


「じゃあ2課ではほとんどできてないということですね」


「まあな、だから明日はまた午後は終わったら例の拷問やな」


「そうですね、覚悟しておきます」



日曜日の朝7時ぐらいになるともう明日の投資信託のノルマの事が頭に蘇ってきて休みの気分が吹っ飛んでしまうことが多かった。


当時は土曜日が半ドンで午前だけ仕事があった。

株式相場が前場だけ開いていたのである。

よってフルの休日は日曜日のみであったのだ。


その唯一の休日である日曜日すら翌日の月曜日が投資信託の締切日であると分かると会社に無理やり出社させられたものである。


一応課長が言葉だけは「あくまでも日曜出社は希望者だけでいいぞ」と言っていたが当の課長自身がご丁寧にも出社するものだから課員の我々も仕方なく出社せざるを得なかった。


本当に今思えば「全く馬鹿馬鹿しい」の一言に尽きる。


しかも大体こんな日曜日の日に限って、いいお天気で俺たちをあざ笑うかのような「超行楽日和」であったように記憶している。


駅などですれ違う家族連れの笑顔を見て一般の人々がなんとうらやましく思えたことか。


それはそうである。

会社が決めた「くだらない無茶苦茶なノルマ」のために家族や恋人たちとの約束を蹴ってまで会社に出てきては顧客のところに電話をさせられていたのであるからこれを拷問と言わずして何とい言おうか。


いずれにしても朝9時に全課員が支店に不承不承集まった。

全員の顔が異様に暗い。


しんと静まり返った支店内にノルマが達成できていない課員が超暗い表情でパラパラとカルテ(顧客のデータを書いた紙)をめくる音だけが虚しく繰り返されるのみであった。


当然、電話をかけたお客さんも今日は日曜日なので在宅していないことが多かったがために形だけ出社はしたもののノルマの数字は全く進展しなかった。


たまに在宅の客がいて電話が繋がっても


「なんだよ!せっかくの休みの日に!」

とか


「お前ら、日曜日くらい休んだらどうなんだ!」


などの暗い表情がさらに暗くなるような言葉ばかり帰ってくるのであった。

あたりまえである。


ただ営業課長としては次の日に支店長に「昨日全員で一応出社をしてまで取り組んだ」と言う揺るぎない既成事実が欲しかったためであった。

生贄か俺たちは?


結局この日は数字が進展しないが夕方くらいになって課長が


「じゃあ、課で5000万円できたことにして今日は帰ろう。明日またがんばろう!解散!」

てなことでお開きになる。



結局なんだったんだよこの日曜日は!


おい○○証券!俺たちの青春を返せ!



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