第86話 社内の出世街道
午後5時半
「おい、太田。聞いたか?中岡課長、京都支店に転勤らしいぞ」
「えー!京都支店言うたら出世街道支店やないですか。大栄転ですね」
「そうやな」
「しかし、あんな異常な性格でも京都支店の課長なんかに栄転できるものなんですね」
「まあ、うちの会社は成績次第やからな。彼はいつも営業成績トップやったからな。こればかりは仕方ないわ」
※
証券会社は「出世街道支店」というのがある。
前述の京都支店
名古屋支店
大阪支店
本店営業部
である。
この支店に配属されたらもうよほどのチョンボを本人がしない限りは同期でトップの道を走ることが約束されていた。
そして俺がいた証券会社は年に2回人事異動が行われる。
ここで人事考課で重要視されるのは入社年月日やその人の人柄、素行、性格ではなく完全に「手数料の多寡」であった。
つまりどんな悪の権化のような人間であっても会社への貢献度が高い手数料収入が多い証券マンほど出世が早かったのである。
毎日300万円ずつ1ヶ月で7500万円の手数料をコンスタントに出している先輩がいたがこの人はやはり異例の出世頭であった。
ただし「神は二物を与えない」というが人間性や社交性はほとんどゼロであったと思う。
社内でこの二つを両立するのは至難の技であった。
つまりどの会社もそうであろうが「人間味あふれる温厚な人柄」であったら一生出社できないということである。
また人事面のマイナス評価となるのは「お客とのトラブル数」であった
トラブルメーカーはだいたい常連で、あまりにその所業がひどいと総務に回されて「株禁止」というレッテルを貼られている人もいた。
岡山支店から転勤してきた早川という男がわが支店にやってきたことがある。
彼はほとんどの客の株を黙って売っては別の銘柄を買うといういわゆる「ダマ転」というのを毎日やっていて当然客からのクレームがばんばん入っていたらしい。
あまりのひどさに会社も彼を「病気」と判断して営業職を辞めさせて俺にいた支店の経理に左遷されたのである。
「人間は無理はいいけど無茶はあかん」というのがというのが彼の口癖でした。
一体どこがどう違うのでしょうか?
俺は未だに分かりません。
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