第85話 推奨「社内結婚」



午前8時朝礼にて


「はい、みんな注目。今日は良い知らせだ。3課の岸本くんがレディの佐伯さんと来月結婚することになった。みんな2次会には是非行ってあげるように」


「岸本先輩結婚されるんですか!おめでとうございます」


「良かったですね、先輩」


「ありがとうみんな、2次回は是非来てくれよな」


「でも交際してたなんて全く気付きませんでしたよ。やりますね」


「やりますね、にくいぜ、先輩!」


「あー、俺もついに現引きの期日が来て結婚にすることになったんだよ」


「まさか増資があったんですか?」


「まぁみんなの想像に任せるよ」


証券会社では社員に忠誠を誓わせ同時に足枷をはめるために社内結婚を推奨していた。


理由は二つある


一つ目は、独身社員に早く身を固めて家庭を持たせて男としての責任感を増大させて仕事に邁進させる。


二つ目は、当然のように証券マンは毎日帰りが遅いので社内事情に理解のある社内のレディさんを奥さんとして結婚を推奨する。


こうすれば帰宅時間が遅くて発生する家庭内トラブルを極力回避できると考えていたからである。


どちらかというと二つ目の理由が大きかったように思う。


俺がいた証券会社は事実7割ぐらいは社内結婚であった。


また他の業界に比べて婚期の早いのも特徴である。だいたい証券会社の男性の結婚平均年齢は25歳ぐらいであったと思う。


前述のように社内の女の子に手を出して結婚を迫られることを「現引き」と言った。


言うまでもなく信用取引で株を買った場合に意に反して下がった場合半年後に現金を用意して現物として引き取ることである。


また結婚前に意に反して子供ができたことを「増資」と言った。




ついでに女性の方には極めて失礼であるが他の色んな特殊用語を説明する。


女の子とうまくやり逃げることを

「利食い」


ちょっとお付き合いするだけを

「打診買い」


ブスばっかり行くやつを

「逆張り」


色々な子にちょっかいを出すやつを

「循環物色」


うまくやっちゃったら

「ゴールデンクロス」


不幸にして病気をもらったら

「追証を払う」


化粧の濃い女性を

「粉飾決算」


離婚を

「株式分割」


没性交渉状態

「塩漬け」


などと淫語でよく会話してたけれども男女平等がやかましい現在なら「女性蔑視」で相当叩かれたことであろう。


それぐらい証券会社内は超「男尊女卑社会」でした。


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