第72話 新入社員の性格改善


証券会社の新入社員には下記の5つの性格改善が要求される。


1 「いい加減」なおかつ「客には理論的」の同居


この2つのものは元来正反対の性質なのにこれを一つの人格内に同居させなければいけない器用さが要求される。


つまり相場なんてのは神様以外は分からないものであるがどっこい顧客の前では「自分はわかっています!私にはお見通しです」なんて偉そうに言わなければならない。


この「言い切るクソ度胸」がまず要求されるのだ。

そりゃあそうである、「相場はわかりません」なんて言ったら客は絶対に株を買わないからである。


もし本当に「自分はわかっています」ならすべての証券マンは大金持ちになるはずだ。



2 お金そのものの考え方を変える


元来お金というものは「100万円は10万使ったら、残りは90万円」というのが通常の一般社会の考え方であるが証券会社の100万円は「儲かれば1000万円にもなるし、やられればゼロにもなる」という考え方を取得しなければならない。


この考え方を習得しないと証券会社の中での生活は至難の技となってくる。


つまりお客さんは「100万円を1000万円にしたい。(でも0は嫌)」という人種ばかりなのでその方たちにマッチしたセールストークを考え出さなければならない。

この辺りが銀行マンと証券マンの考え方の根本的な違いである。


3 曖昧さに慣れる


証券マンはスーパーホワイトカラーのくせに、金融機関のくせに、数字の世界のくせに、最高学歴を出ているくせにとにかく超曖昧な人種なのである。


例えば相場が弱い場合を表す表現として下記の3種類ある。


「今日は月曜ボケですので安いです。買いましょう!」・・・これ月曜日


「週の半ばですから中だるみです。買いのチャンスですよ」・・・火水木曜日


「週末安なので是非買いましょう!」・・・金土曜日


おいおい結局一週間全部安いぞ!

どういうことだ?


4 場中の雰囲気に慣れること


毎朝9時になるとスピーカーから株式部からの市場動向が大きな声で伝えられて、店内がにわかに戦闘態勢になる。

そして大声で営業課長が「よし寄り付き!」なんて声を出す。


あと支店内の場中の様子は


「よっしゃきたきた!」

「重工60円!」

「大成10円まで全部買う!」

「きたー!即転完了!」

なんてまるで雰囲気は博打場か魚河岸のようである。


この騒々しい雑音の中で正確な判断を同時に複数の顧客に対して下すことが要求される。


顧客との電話のときはこの騒音でよく聞こえないものであるから机の下に入って片耳を押さえながら話さなければならなかったくらいである。

電車の通るガード下をイメージして欲しい。


それと騒音対策もさることながら株価がすぐに変わるので客を待たせられないから電話も同時に5本まで取れるようになることが要求された。


この騒々しい活気があふれた仕事場の中で自分の存在をいかにアピールできるかどうかが出世の勝負になってくる。


5 専門用語になれること


社内で使う専門用語にも次の2通りあった。


A 意味が具体的なもの

「即転」や「ナンピン」や「損切り」「寄り付き」など。


これは意味がはっきりしているので教えられたらすぐに理解できるし客や後輩にも説明ができる。


B 主観的で意味がはっきりしないもの。


「しっかり」「甘い」「子甘い」「底打ち感」などの定義が全くないやつでこいつは定義がないから今もって正確に理解できていない。


よって明確に説明のしようがないのだ。

例えれば料理教室でいう「まったり」のようなものである。


以上のようなステップを越えていければめでたし「脱!新人」となる。


しかしそのかわり「まともな人間」からはどんどん遠ざかっているような気がするが・・・

気のせいかな?

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