第71話 証券マンの社会的信用
与信枠
つい先ほどまで大学生だった証券会社の新入社員に与えられた与信枠は今ではびっくりする金額であった。
所謂「社会的信用」の話である。
まずは俺が所属する証券会社では当時2種類のクレジット・カードを発行していたのでこれを必ず作るように強要された。
そして他社との複数のカードを持つ場合はレストランなどの決済時には必ず自社のカードを優先して使うよう教育されていた。
そのカードは自社の審査なので「社内時別審査」で超甘く、上限枠いっぱいの200万円だった。
と言う事は2枚で合計400万円の与信がぺーぺーの平サラリーマンに与えられたのである。
今考えるとなんと無防なことであろうか?
そしてさらに隣の協和銀行のお姉ちゃんも厳しいノルマがあるらしく「ぜひ協和カードを作ってくれ」と言うことで100万円の与信枠付きのカードをほとんど無審査ですぐに作ってくれた。
お隣さん優遇措置である。
おまけに同期で大学を卒業した他の銀行に行った奴らからも当然ノルマがあるのであろう「クレジット・カードを作って!攻撃」が続く。
その攻撃に付き合っているうちになんだかんだ言ってる間に1000万円位の与信が何の担保もない23歳サラリーマンに出来上がってしまった。
バブル時代に証券マンが「歩く1000万円」と呼ばれた所以である。
さらにおまけに、こんないいことがあった。
有名なNTT株の上場の時のことだ。
NTT株は当時公募価格は1,197,000円だった。
このNTT株購入は抽選方式で結果的に約3人に1人の割合で当選したように記憶している。
しかし中には複数当選しながらも資産状況で辞退したいと言う客が何人か出てきた。
俺は彼らの辞退した株を3株およそ360万円で買うことにした。
実はこの株の購入代金は隣の協和銀行がすぐにローンを組んでくれた。
すなわち「NTTの株を買う」と言う条件であれば何株でもその購入代金を用立ててくれると言うような実にハッピーな話である。
しかも無担保である。
銀行から電話で「NTT株をどうぞ」と伝えられた後にすぐに俺の証券口座に360万円が振り込まれていた。
これには驚いた。
しかもNTT株はご存知のように一年後には315万円まで簡単に値上がりしたのであった。
このようにでたらめな証券会社ではあったが様々な金融機関が我々に社会的な信用と必要以上の与信枠を与えてくれた事は事実であった。
しかし当時は俺は金融機関の内情しか知らなかったので他の業界も同じようなものかと思っていたが後から聞くと月とスッポンの違いであったことがわかった。
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