第59話 「追証」ゲットだぜ!
朝8時
「追証」(おいしよう)・・・何と言う忌まわしい響きを持つ言葉であろうか。
さすがに豪傑を誇る証券マンでもできれば聞きたくない言葉である。
「〇〇君、君の客で追証が出てるよー」
と総務の人間にきかされた日にはまるで「ムンクの叫び」のような状態になって固まってしまう。
この追証がノートラブルで取れるようになったら一人前の証券マンの称号がもらえる。
さながらイギリスの「サー」の称号のようなものである。
追証とは株の取引でリスクの大きい「信用取引」をしている人の持っている株が暴落したときに発生する証拠金の不足のことである。
金額的には100万とかそこらの金額て、毎日何千万円扱ってる人間にとっては小さな金額であるが問題はその「追証」を払うようになった過程や今までのいきさつ等の総決算みたいなもので顧客に説明してもなかなかいただきにくいものであった。
しかも1回入れていただいたらそれで終わりと言う代物ではなくその後も連日株価が下がっていったら毎日不足金が発生するものだから全く始末に生えないエンドレスクレームである。
本来、証券マンと顧客との間の人間関係がきちんとできていれば事態がここに至るまでに回避できることである。
つまり初期段階である程度損をしたら損切りを勧めて持っている株を投げていただくことによって追証発生の最悪の事態を避けるのである。
しかしそれが相互に不信感があれば「損してでも売ってください追証防止です」といっても「いや、売ってからいつもすぐ上がるから今回は様子を見る」などとなってしまい最悪の事態にもつれ込む。
はー・・・何か説明してても憂鬱になります。
ここでルールを簡単に説明しますと
1信用取引とは
例えばキャッシュが1000万円あればその3倍の株が買える仕組みであった。
しかし半年で決済しなければならないし、借りた分の金利を負担しなければならないリスキーな面がある。
その反面ここぞと言う時に大きく勝負に出れると言うメリットがある。
2 損金とは
例えば先程の例で1000万円のキャッシュがあって信用取引で3倍の3000万円の株を買った場合株価が半分に下がったら当然1500万円の損金が発生する。
すなわち最初に入れた1000万円が吹っ飛んでもなおかつ500万円足らないと言う非常にスリリングな状況が発生するのだ。
そこでそこに至るまでの危険防止のために常に今買っている株の金額に対して一定のキャッシュ残高を維持しなければならないシステムだ。
株価が下がるとその一定さを保つために不足分の現金ないしは有価証券を差し入れていただく愉快な仕組みになっている。
簡単に言うが膨大な損をしている顧客からなおかつ入金させるのはなかなか難しいものである。
場合によっては相手は怒って電話にも出てこないことも何回もあった。
しかも入金がなければ毎朝総務からこっちの気も知らずに「あの客の追証は一体いつになったら入るのだ」と言われ続けることになる。
「お前、人の気も知らずに偉そうに言いやがって、お前が行って取れるもんなら代わりにとって来い!」
と言いたいのをぐっと我慢する一瞬である。
はー、ユ・ウ・ウ・ツ
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