第53話 給与・ボーナス
「おい、全員聞け。今日はボーナス日だからこのあと各自出納さんのところにボーナスをもらいに行け!」
うれしい知らせを森本課長が課員に伝える。
「お、今回はなんぼあるかな?」大久保が答える
「大久保代理は1000万以上ってうわさですよ」太田君
「ああ、そう願いたいな」
当時バブルのころの証券マンは「高給取り」のあだ名がついていた。
しかし毎月25日に貰う給与は初任給で16万円であった。2年目で25万、3年目で35万であったので「高給取り」からは程遠い。であるので前述の経費をごまかして蓄財するというサイドビジネスが横行していた。まあ両方を足すと「高給取り」の領域に少し近づくことができたかもしれない。
しかし年に2回のボーナスは破格であったのは事実である。
何も会社に貢献できてない新入社員の7月にはすでに50万のボーナスがあったし年末には120万であったから多分他の業界よりは確実に多かったと思う。
よく証券マンのボーナスは「札束が立つ」という表現が使われていたが実際は小切手で貰うので「札束が立つ」瞬間を目にすることはなかった。毎月の給与は指定銀行に振り込まれるがボーナスだけは小切手で手渡しの習慣があった。
出納さんに行ってはんこを押せば封筒に入った小切手がもらえる。それを隣にあった協和銀行に持っていき小切手の裏面に名前を書いてはんこを押せば現金に代わる。
「ボーナスですか?すごいですね」と銀行の女子店員によく言われたので少なくとも都銀よりは多くもらっていたのであろう。
さあ、現金に代えてからが忙しい。
マージャンの清算である。支店内のマージャン仲間たちが喫茶店に集まり今までのマージャンの負け金を払うのである。弱いやつは600万のツケが溜まっていたそうでせっかく貰ったボーナスが右から左である。
当然それだけの大金を負けたとなると勝ったやつが存在する。勝ち組は勝ち金を握って車屋さんに直行。現金で狙っていた新車を速攻で買う。
このように世の中に金が循環してさらにバブルは加速する。
新しく新車を買った先輩にマージャンでいつも負けていた藤原君がよく言ってた言葉がある
「その車は本来はぼくのモノですからね・・・」
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