第47話 経費天国 2
5月21日
「あれ、大久保先輩大きなクマですね」
支店内、大久保先輩の席の後ろに大きなぬいぐるみのクマが鎮座している。
女性スタッフが
「かわいい、かわいい」
と連呼している。
「ああ、今日は息子の誕生日だからな」
「へー、でもこんな大きいぬいぐるみ高かったでしょう?」
「ああ、2万円くらいや。もちろん経費経費」
「ほエー、このクマ経費で落としたんですか?」
「あたりまえやろ、日ごろ頑張っている俺へのご褒美や!こんなもん安いもんや!」
「ほえー」
またもや剛毅な大先輩の言葉に自分の勉強不足を体感する大田君であった。
前述で「領収書さえあれば」なんでも「客への○○」で全て経費で落ちることは説明した。
仲間とゴルフに行っても「客との接待」で通るし家族で高いレストランで食事をしても「客との会食」で通る。
客とは通常、何億の話をする会食なので居酒屋なんかの安い店はだめで高い店であればあるほどいい。
この簡単なシステムを理解すると証券マンは性格と度胸によって次の3つの人種に区分される。
1 小市民
本来払った金額に水増し請求するやつ。
2 小悪党
自分で個人的に使ったものを全て顧客と行った事にしてにすりかえ請求するやつ。
3 大悪党
行ってもいないレストランの請求をするやつ。
それぞれの説明をする。
1 小市民
請求時に領収証の要らない項目がひとつだけあった。
それは「電車代」である。
「○○駅から××駅まで」と書いてその金額を書くだけで領収証なしで経費がでる。
ここで小市民に区分されるやつは本当に行った駅よりも遠くの駅名を書いて何百円のサヤで小銭を稼ぐ。
しかもこの小さな行為すら罪悪感があるのかコソコソ請求書を書いていた。
2 小悪党
こいつらは実際は客と行っていないにもかかわらず個人的に使ったものの領収証をもらって清算する輩。
とはいえ実際に金は払っているものなので次の大悪党に比べるとかわいいものである。
3 大悪党
こいつらは完全にこのシステムを個人の「蓄財」と考えている。
例えば友人などが経営しているレストランから未記入の領収証の束を安く買い取る。
そして前述のように金が必要な場面で適当な金額を書いては清算して蓄財に回す。
しかし同じレストランばかりでは怪しまれるので複数のレストランのカラ領収書をつねに収集している。
毎日1-20万円は蓄財していたと思う。
4 ついでにさらなる超大悪党もいたことを述べる
これは私のいた支店でのことではなくよその支店の話である。
なんとこいつらは4人で組んでレストランとスナックを経営していた。
そして支店の営業マンに飲み食いは全部ここを使うように推奨し、私のいる支店にまで「ここを使ってくれ」と営業をかけてきたのである。
今思えばいつ行っても常にいろんな支店の面々が利用していたのでカラクリがわかるまでは不思議であったがなんのことはない。
各支店の接待交際費を機械的に吸い上げてなおかつ自分の店の領収証作戦で蓄財できるという2面作戦を展開していたのである。
軽く本来の給与よりも多く稼いでいたことは彼らの派手な生活ぶりから見てもあきらかである。
いずれにしても以上のような方法で本来の実需以上の金が世の中に蔓延していたことは事実である。
この現象が全国規模で証券、銀行、不動産、建設など各業種で一斉に起こったのが「バブル」という時代である。
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