第42話 迷惑だらけの付け玉扱い
7月6日 午後2時
「おい太田くん、今日の日立製作所10万株、川村先生で買っといたからな!連絡はもうしてあるから、書類の交換と相場の説明だけしといてくれ、すぐ行ってくれ」
「え、支店長、今からですか?場中ですよ?出ていっていいんですか?」
「そうだ今からだ!ワシの専用車使ってもいいからな、よかったな!これで手数料50万できたじゃないか、早く行ってこい」
太田君は場中に外出できる喜びと手数料が五十万できたうれしさでいっぱいである。
がしかしこれから行く川村先生のところで試練が待っているのも承知である。
このような川村先生のような客を「付け玉」とよび新規開拓時から支店長と同行しておとした客などで、預かりが多い金額のばあいは、相手の安心感を呼ぶ目的から毎日の株の注文は支店長でやる。
しかしその受け渡し業務や、相場の説明は開拓した自分でやらなくてはならない。
そこで双方の思惑の違いがあり、そのミゾを埋める仕事が発生するのである。
まず客先に着いての第一声が
「あれ、太田君だけ?支店長は?」
とこうくる。
「いや支店長は、場中で出られませんので代わりに私が来ました。」
「そうか・・・しかし太田君どう思う、今日の日立製作所も半分無理矢理っぽい形で買わされたんだよ。前の武田薬品もそうだし、それですいませんと持ってきた銀行の転換社債も額面割れで全然ダメじゃないの。少しは顧客に儲けさせる気はあるの?」
「全くありません、先生はみんなから、公衆便所とよばれてます。」と心の中の雄叫び。
しかしこんなことを言おうものなら即殺されるので決して口には出さない。
とにかく管理職はわれわれ営業マンが苦労して取ってきた客の中で金額が大きく扱いやすいと判断すればほとんどが自分等の裁量で勝手に売買してしまうのだ。
そして今の例のように、ややこしい説明とか肝心の受け渡しだけが営業マンに回ってくる楽しいシステムである。
そこでたいていの客は、ここぞとばかりに日々感じている不満材料をこの哀れな営業マンにぶつけるのだ。
そしてこの時の震度を体感して、帰って支店長に報告する。
震度3までの弱震であればそのまま。
震度4から6まで(強震)であれば営業課長を伴ってもう一度訪問して、再度の説明が司令される。
震度7以上の烈震であれば、支店長みずから夜の接待をしていわゆる「寝技」にもちこむ作戦であった。
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