第41話 出来てしまったB伝票
7月7日 午後3時半
「えー!なんでこんなに手数料あがっとんやろ?」
「どうした太田?手数料多かったならいい事やないか、客注と違うか?こっちに回せよ!!」
「いやー、先輩、今日の商いは全部把握してるつもりだったんですがねえ数字が多いんですわ」
「株注ボックス見て確認してこいや」
このあと太田君が先輩のいう株注ボックスで見つけて大声を出すのは、先週からもらってるB伝票の注文であった。
株注ボックスとは、顧客からの注文を受けた時に書く注文伝票(ペロという)をまとめて営業マン別に入れておく箱のことである。
ペロには二とおりあって、赤いのが「買い伝票」、青いのが「売り伝票」である。
よく「赤ペロ」「青ペロ」と呼んでいた。
そして株の注文の仕方にも2通りあり、今日一日だけの注文と、今週一週間ずっと出し続ける注文である。
後者の注文を受けて書いた伝票が「B伝票」という。
このB伝票は株注ボックスの中でも、専用の別の所に入っている。
実は太田君、この週の火曜日の朝、客から「B伝票」の取り消しを受けていたにもかかわらず、その処理をしてなかったのである。
本人は取り消しの意識であるので手数料は当然読んでいなかったためこのような「うれしい」大慌てとなった。
大体証券マンはその日の客から貰った注文は、売り買い、値段まで全部憶えているものだ。
そしてボードの中で、お目当ての銘柄のところをジッと見つめて、指し値の金額近辺になると大声を出しはじめるのだ。
しかし一週間の注文全部ともなる、なかなか憶えきれるものではない。
多い時でペロが一日に50枚ぐらいあった時がある。
もちろんその内の全部が売買成立するのではなく、成立しなかった注文は明日また出すかどうか場が終わってから客に再確認するのである。
結局太田君が注文消し忘れで買えてしまった株の結末は例の「公衆便所」にはめこみ無事終了となった。
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